走行距離課税と物流コスト|小売業に迫る新税のリスクと備え
日本の税制において、新たに検討されている「走行距離課税(走行税)」。
現時点(2025年9月)では導入はされていませんが、議論が本格化しています。
走行距離課税の背景

電気自動車(EV)やハイブリッド車の普及により、従来のガソリン税収は減少傾向にあります。
しかし道路の整備や維持には安定した財源が必要です。そこで「使った分だけ負担する」という公平性の観点から走行距離課税が検討され始めました。
実際にアメリカの一部州ではすでに導入例があり、海外事例を参考にした制度設計が模索されています。
仕組みと特徴

従来の「自動車税」や「ガソリン税」と異なり、課税対象は車の所有や燃料消費ではなく、実際の走行距離です。
- 車をあまり使わない人:税負担は軽め
- 長距離利用や物流事業者:税負担が増加
つまり、「道路をどれだけ使ったか」で税金が変わる仕組みになります。
実際にアメリカでは、オレゴン州やユタ州、バージニア州などが走行距離課税を試験的または本格的に導入しています。
オレゴン州の「OReGO」制度では、1マイルあたりの従量課金制を採用し、すでに支払ったガソリン税分を差し引いた上で差額のみを請求する仕組みです。走行距離の記録方法も複数用意されており、OBD-II端末やコネクテッドカーのデータ、さらには車検時のオドメーター申告などから選択可能で、GPSあり/なしも選べるためプライバシーにも配慮されています。
ユタ州やバージニア州では、電気自動車に課されている定額の追加登録料の代替として走行距離課税を選べる仕組みを導入。走行が少ない人は距離課税の方が得、多く走る人は「定額料を上限」に設計され、過度な負担を避けています。

日本でも上限を設ける形になりそうですね。
増税による反発はあるものの、それを和らげる形になりそうな気がします。
いずれの州も共通しているのは、負担の公平性を保ちながら、プライバシー保護や“増税感”の抑制に配慮していること。利用者が納得感を持ちやすいよう、制度設計が工夫されています。
メリットと課題|公平性とコスト負担の両面から考える

走行距離課税の導入は「公平性」と「環境対応」という観点で大きなメリットがあります。
特にEV普及が進みガソリン税収が減少する中で、安定的な財源を確保する仕組みとして注目されています。
また「走った分だけ支払う」制度は無駄な走行を抑制し、CO₂削減や交通混雑の緩和にもつながる可能性があります。
一方で、課題も無視できません。
✅ プライバシー問題(走行距離や位置情報をどう把握するか)
✅ 運送業・地方事業者への大きな負担(物流コストの増加)
✅ 消費者への価格転嫁リスク(商品値上げに直結)
✅ GPSや車載器導入など制度運用コスト
特に小売業や物流業にとっては「コスト増=商品値上げ」につながる懸念が強く、消費者の生活にも直撃します。
地方の中小物流会社にとっては「価格競争力の低下」や「人材不足への追い打ち」となる可能性があり、制度設計次第では地域経済に深刻な影響を与えることも考えられます。
したがって、導入にあたっては 透明性の高い制度設計 とともに、
・地方や物流業への負担軽減策
・補助金や助成金制度の検討
・段階的な導入スケジュール
といった調整が不可欠です。

ほとんどの商品生産工場は地方にありますからね。
最新動向
2022年から税制調査会で検討が始まりましたが、2025年9月時点では具体的な導入時期や詳細は未定。
ガソリン税の減税議論と並行して議論が進んでおり、今後の税制改革の大きな焦点になっています。

減税と新税がきて、結局一緒かかわらん状況になりそうですね。
小売業への影響と現場の実感
小売業にとって物流コストは切っても切り離せないものです。
- 生産地から倉庫へ
- 倉庫から店舗へ
この一連の流れすべてに走行距離課税がかかれば、運送会社の経費は増加します。
ドライバーの待遇を下げれば離職を招き、人材不足が悪化。結果として物流費用はさらに上がり、小売業が運送会社に支払うコストは増大します。

物流費が上がるのは避けられません。粗利益に影響がでてくることが想像されます。だからこそ、日々の発注精度を高めて廃棄を減らす努力が大切です。
小売業にとって物流コストは「見えにくいけれど確実に利益を圧迫する要素」です。
走行距離課税が導入されれば、配送会社の料金値上げを通じて必ず現場に影響が及びます。
ただ、現場でできる対策もあります。
✅ 発注精度を高めて廃棄を減らす
余剰在庫や返品が減れば、物流コストの相対的負担を抑えることができます。
✅ 共同配送・シェアリングの活用
地域の複数店舗や同業者と連携し、配送ルートを効率化することで1店舗あたりのコストを下げられます。
✅ 店舗オペレーションの効率化
セルフレジ・発注自動化・在庫管理システムなど、省人化と作業短縮は物流増コストを吸収する大きな手段です。
✅ 価格転嫁の仕方を工夫する
単純な値上げではなく、「セット販売」「付加価値商品」「ポイント還元」などでお客様に納得感を持ってもらう工夫が求められます。
走行距離課税は避けられない環境変化かもしれません。
だからこそ「受け身で負担増を受け入れる」のではなく、店舗として 発注・配送・売場づくりの改善で吸収する姿勢 が、これからの経営者に必要だと感じます。
そしてその負担は結局、商品の値上げという形で消費者に波及します。
現状でも「生活が苦しい」と答える国民が6割を超える中、さらなる物価上昇は生活を直撃します。
私たち小売業にできることは、値上げによる不満を少しでも和らげるために、接客やサービスの質を高め、「納得感」ある購買体験を提供すること。この点を改めて強く感じました。
小売業にとって物流コストは「見えにくいけれど確実に利益を圧迫する要素」です。
走行距離課税が導入されれば、配送会社の料金値上げを通じて必ず現場に影響が及びます。

値上げへの不満をゼロにするのは難しいですが、接客力を高めることでお客様をファン化して「ここで買いたい」と思ってもらいましょう。
生活者としての視点

私自身も経営者であると同時に一人の消費者です。
物価上昇を避けることができない時代だからこそ、NISAを活用した投資や副収入づくりなど、個人として資産形成や収入増の努力が必要だと感じます。
これは私一人の問題ではなく、日本に住む誰もが直面する課題です。
「値上げの波にどう備えるか」を考え、行動に移すことが重要です。
明るいニュースも
一方で希望が持てるニュースもあります。
三菱商事と日産自動車は、
- 自動運転
- 電気自動車(EV)
- 次世代モビリティサービス
といった分野で提携を強化。2024年度中に「Moplus株式会社」を設立し、2027年度から遠隔管理型の無人自動運転サービスを事業化する計画を発表しました。
2029年度には100台規模の導入を目指しています。
パパやジィジが運転しなくても車がはしるの?


そんな世の中をつくろうとしてるんだね。
企業もまた物流コスト増に正面から向き合い、未来を見据えた仕組みづくりを進めています。
私たち消費者・小売業もこうした挑戦を応援し、前向きに共に歩んでいく必要があると強く感じました。
👉 まとめ
走行距離課税は単なる新しい税制度ではなく、私たちの事業運営そのものに直結する大きなテーマです。
物流コストの増加は、やがて仕入れ価格や販売価格に波及し、現場の利益率を圧迫します。
しかし、これは同時に「経営者としての腕の見せ所」でもあります。
発注精度を高めて廃棄を減らすこと、配送効率を見直すこと、そして接客やサービスでお客様に納得していただける付加価値を提供すること。こうした一つひとつの努力が、値上げ時代を生き抜く力になります。
避けられない制度の変化だからこそ、「どう備え、どう差別化し、どうチャンスに変えるか」が問われています。
私たち経営者は、目先のコスト増に振り回されるのではなく、変化を前提にした経営判断を積み重ねていくことが求められているのだと思います。



