コンビニ現場でPDCAが回らない理由|Pがなくても始められる「小さな改善」の考え方
「PDCAを回そう」
コンビニの現場で、この言葉を聞いたことがない人はいないと思います。 売上改善、廃棄削減、人材育成—— どんなテーマでも、最後は「PDCAが大事だ」と言われます。
でも正直、現場ではこんな声の方が多いのではないでしょうか。
- 「P(計画)を立てろと言われても、何を考えればいいか分からない」
- 「ちゃんとしたプランがないと動いちゃいけない気がする」
- 「結局、考えるのは店長だけになっている」
PDCAが大事なことは、みんな分かっています。 それでも、現場ではなかなか回らない。
この状況を、「スタッフの考える力が足りない」 「主体性がない」で片付けてしまうと、店はどんどん苦しくなります。
多くの現場では、
- Pは立派な計画でなければならない
- 失敗してはいけない
- 正解を出さなければならない
という無言の前提が、知らないうちに出来上がっています。
その結果、「考える前に止まる」「何も始まらない」という状態に陥ってしまうのです。

PDCAが回らないのは、能力の問題じゃない。 「回し方」を間違えているだけです。
この記事では、コンビニの現場を前提に、
- そもそもPDCAとは何なのか(現場目線で)
- なぜ現場では「P(プラン)」が出なくなるのか
- Pがなくても始められるPDCAの考え方
- 小さな改善が自然に回り出す体制づくり
について、机上の理論ではなく 「現場で本当に使える形」で整理していきます。
完璧な計画は必要ありません。 必要なのは、
「小さく回して、戻せるPDCA」
忙しい現場でも、 人が育っていく店をつくるためのヒントとして、 ぜひ最後まで読んでみてください。
そもそもPDCAとは何か?(現場目線で考える)

まず、PDCAについて一度、肩の力を抜いて整理してみましょう。
PDCAとは、仕事や業務を少しずつ良くしていくための考え方です。 難しい経営理論でも、特別な管理手法でもありません。
PDCAは、次の4つの頭文字を取った言葉です。
- P(Plan):どうするか決める
- D(Do):実際にやってみる
- C(Check):どうだったかを見る
- A(Action):次にどうするか決める
この流れを一度で終わらせるのではなく、 何度も繰り返すことで、仕事のやり方を洗練させていく。 それがPDCAです。
PDCAは「管理」や「評価」のためのものではない
PDCAと聞くと、こんなイメージを持つ人も多いかもしれません。
- チェックされる
- ダメ出しされる
- 管理される
ですが、これはPDCAの本質ではありません。
本来のPDCAは、
- ミスを責めるためのものではなく
- 誰かを評価するためのものでもなく
仕事を楽にするための仕組みです。

PDCAは「管理ツール」じゃない。 現場を守るための「生活の知恵」みたいなものです。
コンビニ業務は、実はPDCAだらけ
コンビニの現場を思い浮かべてみてください。
- 天気が変わる
- 気温が変わる
- 来店客の流れが変わる
- 人員が日によって違う
同じ日が、ほとんどありません。
つまりコンビニ業務は、「決められた通りにやるだけ」では回らない仕事です。
だから現場では、無意識のうちにこんなことをしています。
- 昨日忙しかった時間帯を意識する
- 売れ残った商品を次は減らす
- 混んだ時の動きを少し変える
これらはすべて、小さなPDCAです。
よくある誤解|「PDCAはPから始めなければならない」
PDCAが止まってしまう現場で、 とてもよく聞くのがこの考え方です。
「まずは計画(P)を立てましょう」
この言葉が、考えること自体を止めてしまうケースは少なくありません。
- 完璧な計画を立てないといけない
- 失敗できない
- 正解を出さないといけない
そう思った瞬間、人は動けなくなります。

現場のPDCAに「正解」はほとんどありません。 あるのは「やってみた結果」だけです。
次の章では、なぜ現場では「P(プラン)」が出なくなるのか?
その理由を、スタッフ側の心理・現場の空気から分解していきます。

なぜ現場では「P(プラン)」が出ないのか?

PDCAが回らない店の多くで、 最初につまずくのが P(Plan)が出ない問題です。
店長やオーナー側から見ると、
- 「考えれば分かることなのに」
- 「何か案を出してほしいだけなのに」
と思ってしまいがちです。
ですが、現場側には現場なりの理由があります。 Pが出ないのは、能力の問題ではありません。
理由① 正解を出そうとして止まってしまう
スタッフに「どうしたらいいと思う?」と聞くと、 頭の中ではこんなことが起きています。
- 「間違ったことを言ったらどうしよう」
- 「もっといい案があるはず」
- 「中途半端な意見は出しちゃいけない」
つまり、正解を出そうとして、何も言えなくなる状態です。
ですが、現場のPDCAに 「正解」なんて、ほとんどありません。

必要なのは正解じゃない。 「まず一手目」を出すことです。
理由② プラン=責任だと思っている
Pを出すことに対して、
- 「結果が出なかったら責められる」
- 「失敗したら自分のせいになる」
と感じているスタッフは、少なくありません。
特に、
- 過去に否定された経験がある
- 「なんでそんなことしたの?」と言われたことがある
場合、考えること自体を避けるようになります。
この状態で「もっと主体的に考えて」と言っても、逆効果になることがほとんどです。
理由③ そもそも「考える役割」だと思っていない
もう一つ、見落とされがちな理由があります。
それは、「考えるのは店長の仕事」という空気が、無意識のうちにできているケースです。
- 指示されたことをやる
- 言われた通りに動く
- 判断は上の人がする
この文化が続くと、 Pを出す回路そのものが育ちません。
これは能力ではなく、役割認識の問題です。

考えない人が悪いんじゃない。 「考えなくていい環境」だっただけです。
理由④ 「P=立派な計画」だと思い込んでいる
PDCAという言葉自体が、 現場にとっては少し重い場合もあります。
- 計画書
- 数字
- 会議
こうしたイメージが先行すると、「そんな大それたこと、考えられません」となってしまいます。
ですが、現場で必要なPは、 そんな立派なものではありません。
まとめ|Pが出ないのは、人ではなく「前提」
ここまでの理由をまとめると、
- 正解を求めすぎている
- 失敗できない空気がある
- 考える役割だと思われていない
- Pを重く定義しすぎている
という前提や環境が、 Pを出にくくしているだけです。

Pが出ないのは能力不足じゃない。 「出していい」と思えるかどうかです。
次の章では、「じゃあ、PがなくてもPDCAはどう回すのか?」
現場で実際に使える考え方を、 具体例と一緒に整理していきます。

PがなくてもPDCAは回せる(現場用の回し方)

ここまで読んで、「Pが出ない理由は分かった。 でも、じゃあどうやって回せばいいの?」と思った方も多いと思います。
結論から言うと、
Pがなくても、PDCAは回せます。
というより、コンビニの現場では Pが弱い、あるいは無い状態で回している方が普通です。
現場では「Pが整う前に動かざるを得ない」
コンビニの現場では、こんな状況が日常的に起こります。
- 急に忙しくなる
- 人が足りない
- 想定外の売れ方をする
そんな中で、「完璧な計画を立ててから動く」ことは、現実的ではありません。
だから現場では、 「動きながら考えるPDCA」 が自然に行われています。
D→C→Aから始まるPDCAという考え方
現場で一番自然なのは、次の流れです。
- D(とりあえずやる)
- C(やってみて気づく)
- A(次はこうしよう)
- それが次のPになる
つまり、行動が先、プランは後という順番です。

これはPDCAを省略しているのではなく、 現場に合った「正しい回し方」です。
よくある現場の「後出しP」の具体例
例えば、こんな場面です。
- 思った以上にレジが混んだ
→ 次は、この時間の前にレジ前を整理しておこう - 品出しが間に合わなかった
→ 先に売れる商品から出そう - 欠品が出た
→ この曜日は少し多めにしてみよう
これらはすべて、
- D:いつも通りやった
- C:やりづらさ・問題に気づいた
- A:次の工夫を決めた
結果として、Pが後から生まれている状態です。
「Pが弱いPDCA」は失敗ではない
よくある誤解ですが、Pが弱い=PDCAができていないではありません。
むしろ現場では、
完璧な計画を1つ作るより、 小さな仮説を何度も回す方が、確実に改善は進みます。

PDCAは「当てにいくゲーム」じゃない。 「試して学ぶ仕組み」です。
Pが軽くなると、現場は動き出す
Pのハードルを下げると、現場ではこんな変化が起きます。
- 意見が出やすくなる
- 試すことへの抵抗が減る
- 改善が日常になる
「考えること」が、 特別な仕事ではなく日常の一部になります。
これは、人を変えたのではなく、回し方を変えただけです。
次の章では、じゃあ現場で言う「小さなP」とは何なのか?
そして、どうすれば自然に小さなPが出る体制を作れるのか?
を、さらに具体的に掘り下げていきます。

現場で言う「小さなP」とは何か?

ここまでで、
- Pは完璧じゃなくていい
- Pは後から生まれてもいい
- Pが軽い方がPDCAは回りやすい
という話をしてきました。
では、実際に現場で使う 「小さなP」とは、どんなものなのでしょうか。
小さなPは「計画」ではなく「次の一手」
まず大前提として、現場のP=立派な計画書ではありません。
現場で言う小さなPとは、「次は、こうしてみよう」この一言に集約されます。
小さなPの具体例(コンビニ現場)
例えば、こんなレベルで十分です。
- 次のピーク前に、レジ前を少し片づけておく
- 売れ残った商品は、次は1個減らしてみる
- 忙しい時間帯は、声かけを一言減らしてスピード優先にする
- 新人が入る時間は、作業を1つ減らす
どれも、
- 数字が細かく出ていない
- 完璧な根拠があるわけでもない
ですが、これで十分PDCAは回ります。

「それ、やってみよう」でOK。 戻せるなら、なお良し。
小さなPは「失敗しても戻せるサイズ」にする
小さなPで大事なのは、失敗しても、すぐ元に戻せることです。
例えば、
- 発注を大きく変えすぎない
- 手順を一気に変えすぎない
- 一度に全員にやらせない
この感覚があるだけで、 現場の心理的ハードルは一気に下がります。
「考えて」と言わなくてもPが出る聞き方
小さなPを出してもらう時、「何か改善案ある?」と聞くと、急に重くなります。
おすすめなのは、聞き方を変えることです。
- 「今日、やりづらかったことある?」
- 「ちょっと楽になりそうなことある?」
- 「次は何を変えたらよさそう?」
これだけで、返ってくる内容が変わります。

Pを出させるんじゃない。 Pが出やすい聞き方をする。
小さなPは「個人」から「チーム」へ広げる
最初は、個人レベルの小さなPで構いません。
それが、
- 共有される
- 真似される
- 少し修正される
ことで、チームのPに育っていきます。
この流れができると、
改善が「誰かの仕事」ではなくなります。
次の章では、この「小さなP」を自然に生み出すための体制づくりについて、 オーナー・店長側がやるべきことを整理します。

小さなPを生み出すための「現場の型」

ここまでで、
- Pは小さくていい
- Pは後から生まれていい
- Pは安全に試せるサイズがいい
という話をしてきました。
ただ、これを「意識してください」だけで終わらせてしまうと、 現場はなかなか変わりません。
そこで必要になるのが、小さなPが自然に出てくる「型」です。
型① 考えさせない。まず「振り返らせる」
いきなり、「改善案を出して」と聞くと、現場は止まります。
最初にやるべきは、考えさせることではなく、振り返らせることです。
そのために使える質問は、この3つだけです。
- 今日、やりづらかったことは?
- ちょっと無駄だなと思ったことは?
- 一回で済まなかった作業は?
これなら、誰でも答えられます。

考えさせなくていい。 感じたことを出してもらえばいい。
型② 「次はどうする?」は最後に聞く
振り返りの段階で、
- 困ったこと
- やりづらかったこと
が出てきたら、そこで初めて「じゃあ、次はどうする?」と聞きます。
この順番が大切です。
この時に出てくる答えは、
- 完璧でなくていい
- 一部だけでいい
- 仮でいい
と、必ず伝えてください。
型③ Pは「決定」ではなく「仮」でいい
小さなPが出た時、「それで本当に大丈夫?」と確認してしまうと、 一気に重くなります。
代わりに使いたい言葉は、
- 「一回やってみよう」
- 「ダメなら戻そう」
- 「短期間で試そう」
これだけです。

Pは「決断」じゃない。 実験です。
型④ 小さなPは必ず「共有」する
せっかく出た小さなPも、
- 本人だけで終わる
- その場だけで終わる
と、育ちません。
おすすめなのは、
- 朝礼で一言共有
- 引き継ぎノートに一行
- チャットで短く報告
といった軽い共有です。
型⑤ 責任は「上」が持つと明言する
小さなPを安心して回すために、 一番大事なのがこれです。
この一言があるかないかで、 現場の動きは大きく変わります。
- 「失敗しても大丈夫」
- 「怒られない」
- 「挑戦していい」
そう感じられると、人は自然と動きます。

任せるって、 「責任も渡す」ことじゃない。
まとめ|型があれば、考えるのは難しくない
ここで紹介した「現場の型」は、
- 特別なスキルはいらない
- 時間もかからない
- 誰でもできる
ものばかりです。
型があれば、考えることは、才能ではなく習慣になります。
次はいよいよ最後に、この型が定着すると、店はどう変わるのか?をまとめとして整理します。

まとめ|小さなPが回る店は、自然と強くなる

この記事では、
- PDCAが回らない理由
- P(プラン)が出ない現場の構造
- Pがなくても回せるPDCAの考え方
- 現場で使える「小さなP」
- 小さなPを生み出すための型
を、コンビニの現場を前提に整理してきました。
一番伝えたかったことは、とてもシンプルです。
PDCAが回らないのは、現場のせいじゃない
Pが出ない。 意見が出ない。 改善が続かない。
そうなると、つい「もっと考えてほしい」 「主体性を持ってほしい」と言いたくなります。
でも実際は、考えにくい前提・空気・回し方が、現場にあっただけです。

人が変わらないんじゃない。 仕組みが、人を止めていただけ。
「完璧なP」を捨てると、現場は動き出す
完璧な計画を立ててから動こうとすると、 現場は止まります。
でも、「次はこうしてみよう」という一言なら、誰でも出せます。
それを、
- 試して
- 戻して
- 少し直して
繰り返すだけで、 PDCAは自然と回り始めます。
オーナー・店長の役割は「考えさせる」ことではない
現場に任せるというと、
- 丸投げすること
- 責任を渡すこと
だと誤解されがちです。
でも本当は、「安心して試せる場」を用意することが、オーナー・店長の一番の役割です。

任せるって、 「失敗しても守る」と決めること。
小さなPが積み上がると、店は変わる
小さなPが回り始めると、 店にはこんな変化が出てきます。
- スタッフから自然に気づきが出る
- 改善が共有される
- 店長・オーナーが全部考えなくてよくなる
結果として、「回る店」になります。
これは根性論ではありません。 仕組みの力です。
今日からできる、たった一つのこと
最後に、 今日からできることを一つだけ挙げるなら、「今日、やりづらかったことある?」この一言を、現場で投げてみてください。
そこから出てきた一言が、 次の小さなPになります。

完璧じゃなくていい。 小さく回せば、店はちゃんと前に進みます。
店長・オーナー向けチェックリスト

全部できなくていい。 一つでも「安心して試せる空気」を作れたら、それで十分。
もし、今の現場で
- 意見が出ない
- 改善が続かない
- 全部自分に集まってしまう
と感じているなら、人を変える前に、回し方を一つ変えてみてください。
小さなPが回り始めると、 店は静かに、でも確実に強くなっていきます。
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