責任感が育たない本当の理由|廃棄管理を人材育成に変える現場改善
「もっと責任感を持ってほしい」
人材育成の相談を受ける中で、私が一番よく耳にする言葉です。
廃棄が出ても、自分の給料が減るわけではない。
万引きが起きても、自分のお金が減るわけではない。
レジの現金が合わなくても、最終的に困るのは会社やオーナー。
そう考えてしまうスタッフや店長が出てくるのは、正直なところ珍しい話ではありません。
だからといって、 「責任感が足りない」 「意識が低い」 と切り捨ててしまうと、現場はどんどん疲弊していきます。
実はこの問題、性格や根性の話ではありません。
ほとんどの場合、「仕組み」と「関わり方」の問題です。
私自身、廃棄が増えたとき、数字に対する当事者意識が現場から感じられず、 「どうすれば責任感を育てられるのか」 何度も悩みました。
そこで試したのが、廃棄を「怒る材料」ではなく、「考える材料」に変える
という取り組みです。
この記事では、廃棄管理をきっかけに、
- なぜ責任感が生まれにくいのか
- なぜ義務化がうまくいかなくなるのか
- 現場で効果を感じた具体的な考え方
を、現場目線で整理していきます。
「管理を強めずに、現場を強くしたい」
そう考えている方のヒントになれば幸いです。
責任感が生まれにくい本当の理由

廃棄やロスが増えたとき、つい口にしてしまいがちなのが 「責任感が足りないんじゃないか?」という言葉です。
ですが、現場をよく観察してみると、 責任感の有無は、本人の意識や性格以前に「構造」の問題であることがほとんどです。
「意識が低い」のではなく「構造の問題」
多くの店舗では、知らず知らずのうちに次のような構図ができています。
- 発注量を決めるのは上司
- 売場の方針を決めるのも上司
- スタッフや店長は「言われた通りに動く」
そして結果として、
- 廃棄が出た
- ロスが増えた
- 数字が悪化した
この「結果」を最終的に引き受けるのは、オーナーや会社です。
この状態では、現場に強い責任感が生まれにくいのは、むしろ自然です。
判断する人と、責任を取る人が分かれている
責任感が育たない現場の多くは、 「判断」と「責任」が分断されています。
つまり、
- 判断は上司
- 結果の責任は会社
この構造では、現場にとって廃棄やロスは 「自分とは少し距離のある出来事」になってしまいます。
結果として、
- 数字を見ても実感が湧かない
- 反省しても次につながらない
- 「自分には関係ない」という感覚が残る
これは怠慢ではなく、構造がそうさせている状態です。

現場でよく見るのは「責任感がない人」ではなく、 「責任を持つ経験をしていない人」なんですよね。
人は「自分で決めたこと」にしか本気になれない
人が本気になる条件は、シンプルです。
「自分で決めたかどうか」
自分で判断し、
- 結果が出て
- 振り返って
- 次を考える
この一連の流れを経験して、はじめて「責任感」は育ちます。
逆に言えば、
- 判断できない
- 結果に影響しない
- 振り返る機会もない
この3点がそろうと、人は自然と「自分ごと」から離れていきます。
「怒られた経験」は責任感を育てない
廃棄が増えたとき、
- 強く注意する
- 原因を問い詰める
- 再発防止を求める
こうした対応をすると、一時的に数字が改善することはあります。
ただその裏側では、
- 失敗を隠す
- 報告を避ける
- 無難な行動しかしなくなる
という副作用が起こりやすくなります。
これは責任感が育ったのではなく、萎縮しただけの状態です。
責任感がないのではなく、責任を持てる構造になっていない
ここまでを整理すると、見えてくるのはこの一点です。
責任感がないのではない。 責任を持てる構造になっていないだけ。
この視点に立てるかどうかで、人材育成の方向性は大きく変わります。

責める前に「構造」を疑う。 これができると、現場の見え方がガラッと変わります。

責任感は「押し付けるもの」ではない

責任感が足りないと感じたとき、 次にやってしまいがちなのが「ルールを増やす」「義務化する」ことです。
報告を必須にする。
フォーマットを作る。
数字提出を徹底する。
一見すると管理が強化され、現場が引き締まったように見えますが、 ここには大きな落とし穴があります。
義務化がうまくいかなくなる瞬間
義務化が形骸化するとき、現場ではこんな状態が起きます。
- とりあえず数字だけ書く
- 無難な改善策を書く
- 深く考えなくなる
すると残るのは、責任感ではなく、「やらされ感」だけ
本人の中では、 「考える仕事」ではなく「こなす作業」に変わってしまいます。
数字を「評価の道具」にすると、思考は止まる
PDCAや改善、振り返りといった言葉が、 現場で重く受け取られる理由の多くはここにあります。
数字を見る=評価される 改善を書く=責められる
こうしたイメージがあると、
- ちゃんとしたことを書かなきゃ
- 失敗すると評価が下がるかも
という心理が働き、本音や仮説が出なくなります。
結果として、無難で意味のない改善案だけが並ぶようになります。
使うのは「言葉」ではなく「型」
ここで私が意識したのは、 「PDCA」という言葉を使わないことでした。
中身はPDCAでも、あえてそう言わない。
代わりに使ったのは、次のシンプルな流れです。
- 何が起きたか
- なぜそうなったと思うか
- 次に一つだけ何を試すか
- 結果はどうだったか
この「型」だけを繰り返します。
「失敗してもOK」を必ずセットで伝える
考える文化を育てるうえで、 絶対に欠かせない一言があります。
「試して失敗しても評価は下げない」
これを最初に伝えないと、誰も本音では考えません。
- 何も考えずに動くのはNG
- 考えて行動したことは評価する
この線引きをはっきりさせるだけで、 現場の空気は驚くほど変わります。

PDCAが回らない原因は「能力」じゃなくて「恐怖」です。 失敗してもOK、と言えるかどうかが分かれ道ですね。
責任感は「守らせるもの」ではなく「育つもの」
責任感は、
- 言葉で教えても
- ルールで縛っても
- 罰で管理しても
身につきません。
育つのは、
- 自分で考える余地があり
- 結果を見て
- 次を考える経験をしたとき
だけです。

廃棄管理を「責任感育成」に変えた具体的な取り組み

廃棄を減らすために、最初にやったことは 叱ることでも、ルールを増やすことでもありません。
私が意識したのは、 廃棄を「評価材料」ではなく「考える材料」に変えることでした。
数字は管理のためにあるのではなく、 人を育てるためにも使える。 その発想への切り替えです。
廃棄=「失敗」という扱いをやめた
まず最初にやめたのは、次のような反応です。
- 詰める
- 責める
- 原因を断定する
廃棄が出たからといって、 「なぜこんなことになったんだ?」 という聞き方はしませんでした。
代わりにやったのは、事実の整理だけです。
評価も、結論も、まだ出しません。
正解を求めない。仮説で十分
次に意識したのは、 「正解を出させない」ことです。
完璧な原因分析も、立派な改善策も不要。
求めたのは、この一言だけでした。
「なぜ、こうなったと思う?」
たとえ、
- 仮説レベル
- 感覚的な意見
- 自信なさげな答え
でもOKです。
「考えたかどうか」だけを大事にしました。

正解探しを始めた瞬間、思考は止まります。 仮説でいいから「自分の言葉」で考えることが大事なんですよね。
次に試すのは「一つだけ」
改善策を考えるときも、欲張りません。
やるのは、 「次に一つだけ何を変えるか」。
- 発注を少しだけ減らす
- 並べる量を1フェイス減らす
- 時間帯で補充基準を変える
小さくてOK。 失敗してもOK。
重要なのは、 「自分で決めて、試した」という経験です。
店長は「答えを出す人」にならない
この取り組みで、店長に一番意識してもらったのはここです。
答えを先に言わない
店長が正解を言ってしまうと、 その瞬間に「考える役割」は現場から消えます。
代わりに投げるのは、問いです。
- 「この日は何が影響したと思う?」
- 「どの時間帯が一番多かった?」
- 「次、何か一つ変えるなら?」
答えは、現場から出させます。
全員を無理に巻き込まない
最初から全員参加にすると、 形だけのミーティングになりがちです。
なので最初は、
- 興味がある人
- 数字に強い人
- 考えるのが好きな人
この少人数から始めました。
うまく回り始めてから、少しずつ広げれば十分です。

人材育成は一斉スタートしなくていい。 まずは「芽が出る人」からで大丈夫です。
目的は「廃棄ゼロ」ではない
ここを勘違いすると、また管理に戻ってしまいます。
目的は、
- 廃棄ゼロにすること ✕
- 無駄な廃棄を減らす ○
- 納得できる廃棄にする ○
廃棄を完全に否定すると、
- 欠品が増える
- 売場が弱くなる
- 挑戦しなくなる
という別の問題が起きます。
廃棄は「悪」ではなく、 改善のヒントです。
数字は「怒るため」ではなく「会話を生む材料」
最終的に変わったのは、 廃棄を見る目でした。
以前: 「また廃棄が出た」
今: 「ここに改善のヒントがある」

廃棄を減らしたかったんじゃない。 「考えられる店長」を育てたかった。 今振り返ると、そういう取り組みでした。

責任感はどうやって育つのか

ここまで読んでいただくと、 「じゃあ、責任感って結局どうすれば育つの?」 という疑問が出てくると思います。
結論から言うと、責任感は 言わせるものでも、守らせるものでもありません。
経験として、少しずつ身についていくものです。
責任感は「性格」ではなく「経験」
現場でよく聞く言葉があります。
- 「あの人は責任感がない」
- 「意識が低いタイプだから」
ですが、実際には多くの場合、
責任を持つ経験をしたことがないだけ
というケースがほとんどです。
責任感が育つプロセスは、とてもシンプルです。
- 判断を任される
- 結果を見る
- 振り返る
- 次を考える
この流れを何度も経験することで、 少しずつ「自分ごと」になっていきます。
「任せる」と「放置」は違う
ここで注意したいのが、 任せる=放置ではない、という点です。
任せるとは、
- 判断の余地を渡す
- 結果を見る場をつくる
- 振り返りに付き合う
この3点がセットになって初めて成立します。
丸投げしてしまうと、 不安や不満だけが残り、逆効果になります。
「自分で決めた」という感覚が責任感を育てる
人は、
自分で決めたことに対しては、驚くほど粘ります。
同じ結果でも、
- 指示された結果
- 自分で決めた結果
では、受け止め方がまったく違います。
失敗したとしても、
「自分で決めたから、次はこうしよう」
と前を向けるようになります。

責任感って「覚悟」みたいなものなんですよね。 その覚悟は、自分で決めたときにしか生まれません。
小さな裁量の積み重ねが、現場を変える
最初から大きな責任を与える必要はありません。
むしろ、
- 発注数を少し調整する
- 売場の一部を任せる
- 時間帯の判断を任せる
こうした小さな裁量の積み重ねが効果的です。
成功も失敗も含めて、
「自分で決めた → 結果が出た」
この経験が増えるほど、 責任感は自然と強くなります。
責任感が育つ現場の共通点
責任感が育っている現場には、共通点があります。
- 数字を責めるために使わない
- 対話がある
- 小さな裁量がある
逆に、
- 管理だけが強い
- 指示が多い
- 失敗が許されない
こうした現場では、責任感は育ちにくくなります。

責任感は押し付けるほど逃げていく。 任せて、考えて、振り返る。 この繰り返しが、強い現場を作ります。

まとめ|管理を強めず、現場を強くする

「責任感が足りない」
この言葉は、現場で起きている問題を一言で片づけてしまう、 とても便利で、そして危険な言葉でもあります。
この記事でお伝えしてきた通り、 多くの場合、問題は人の意識ではなく「構造」にあります。
この記事のポイントを振り返る
- 責任感がないのではなく、責任を持てる構造になっていない
- 数字は責めるためではなく、考えるために使う
- 義務化はきっかけであって、割り切ることが必要
- PDCAは言葉ではなく「型」として使う
- 人は「任された分だけ」育っていく
これらはすべて、 「管理を強める」方向とは逆の考え方です。
管理を強めると、数字は整う。でも人は育たない
ルールを増やし、義務を課し、チェックを厳しくすれば、 一時的に数字は整います。
しかしそれは、 人が育った結果ではありません。
管理によって整った数字は、 管理を緩めた瞬間に崩れます。
一方で、
- 考える余地があり
- 小さな裁量があり
- 対話がある
こうした現場では、人が育ち、 結果として数字が安定していきます。
廃棄・ロスは、人材育成の材料になる
廃棄やロスは、
- 怒るための数字
- 詰めるための材料
ではありません。
考えるための数字であり、 会話を生む材料です。
その数字をどう扱うかで、
- 萎縮する現場になるか
- 考える現場になるか
が決まります。
責任感は、あとからついてくる
責任感を先に求める必要はありません。
任せて、考えて、振り返る。 この経験を積み重ねた結果として、 あとから自然についてくるものです。
「責任感がある人を育てよう」とするよりも、 「責任を持てる経験を用意しよう」と考える。
そのほうが、現場は確実に変わっていきます。

管理を強めなくても、現場は強くなります。 数字を「考える材料」として使い続けること。 それが、長く強い店舗をつくる一番の近道だと感じています。
人材育成に即効性はありません。 ですが、こうした関わり方を続けていくことで、
考える現場・任せられる店長は、必ず増えていきます。
この記事が、 「管理を強めずに現場を強くしたい」 そう考えている方のヒントになれば幸いです。
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