人は採用しても育たない?現場で見えた教育と定着がうまくいかない本当の理由
「人は採用しても、なかなか育たない」
「せっかく入ったのに、すぐ辞めてしまう」
店舗経営をしていると、
一度は必ずぶつかる悩みではないでしょうか。
人手不足が続く現場では、
「とりあえず人を入れよう」
「入ってから教えれば何とかなる」
そう考えてしまうのも、無理はありません。
ですが実際には、
- 採用できてもすぐ辞める
- 教えてもなかなか戦力にならない
- 教える側だけが疲弊していく
こうした状態に陥っている店舗が、
非常に多いのが現実です。
私自身、
コンビニ経営の現場で、
採用 → 教育 → 定着
この流れを何度も繰り返し見てきました。
その中で強く感じているのは、
ということです。
本人のやる気や能力だけに原因を求めてしまうと、
本当に見直すべきポイントを見失ってしまいます。
この記事では、
感情論や精神論ではなく、
現場目線で見えてきた「教育がうまくいかず、定着しない本当の理由」
を整理しながら、
これからの人材育成を考えるヒントをお伝えしていきます。
採用と教育は別物として考えられがち

人手不足のとき、
現場の意識がまず向くのは、どうしても「採用」です。
- 応募を増やしたい
- 人数を確保したい
- とにかく穴を埋めたい
この気持ちは、
現場に立っていれば、誰でも自然に湧いてきます。
忙しい時間帯が続けば、
「今は教育どころじゃない」
そう感じるのも無理はありません。
「採ったあと、どうなるか」が後回しになりやすい
問題は、
採用と教育を切り離して考えてしまうことです。
「とりあえず入れてしまえば、あとは何とかなる」
「現場で動きながら覚えてもらえばいい」
こうした考え方で採用を進めると、
そのツケは、
すべて教育の段階で表に出てきます。
- 教える時間が取れない
- 誰が何を教えるか決まっていない
- その日の忙しさで教え方が変わる
結果として、
新人は混乱し、
教える側も余裕を失っていきます。
採用と教育は「一本の線」でつながっている
本来、
採用と教育は別々のものではありません。
ここまで含めて、
初めて「採用」と言えるはずです。
この視点が抜けたまま採用を進めると、
教育の段階で無理が生じ、
「育たない」「続かない」
という結果につながりやすくなります。

採用はゴールではなく、
教育のスタート地点です。
ここを間違えると、すべてが苦しくなります。
人手不足ほど、構造のズレが表に出る
人に余裕がある現場では、
多少やり方が曖昧でも、
何とか回ってしまいます。
ですが、
人手不足の現場では、
採用と教育のズレが、一気に表面化します。
- 教える人が毎回違う
- 基準が統一されていない
- 新人が不安を抱えたまま放置される
こうした状態では、
新人が育たないのも、
辞めてしまうのも、無理はありません。
「育たない」のではなく「育てられない現場」

新人が育たない理由として、
現場でよく聞く言葉があります。
- 覚えが悪い
- やる気が感じられない
- この仕事に向いていない
確かに、
個人差があるのは事実です。
ですが、
現場を見ていて強く感じるのは、
だということです。
新人が育たない現場に共通する状況
育てられない現場には、
いくつか共通した特徴があります。
- 教える時間が確保できていない
- 教える人が日によって違う
- 忙しさが常に限界に近い
この状態では、
どんな人が入ってきても、
育つのは簡単ではありません。
新人は、
「今は聞いていいのか分からない」
「忙しそうで声をかけづらい」
そんな不安を抱えながら、
日々の業務をこなすことになります。
「育てられない状態」で結果だけを求めてしまう
問題なのは、
育てられない状態にもかかわらず、
結果だけを新人に求めてしまうこと
です。
- ミスが減らない
- 動きが遅い
- 指示を待ってしまう
こうした状況に対して、
「もう何回も言ったよね」
「前も教えたよね」
と感じてしまうと、
新人と現場の間に、
少しずつ溝が生まれていきます。
新人が感じているのは「能力不足」ではない
新人が感じている不安の多くは、
- これで合っているか分からない
- 迷惑をかけていないか不安
- 聞くタイミングが分からない
といった、
環境由来の不安です。
能力ややる気の問題ではなく、
「安心して学べる状態が用意されていない」
これが、育たない一番の原因になるケースは少なくありません。

新人が黙ってしまったとき、
能力を疑う前に、
現場の余裕を疑ったほうがいいことも多いです。
マニュアルがあっても人が育たない理由

新人教育の話になると、
多くの店舗で、こんな言葉を聞きます。
「マニュアルは用意しています」
「一通りは揃っています」
確かに、
マニュアルを整備すること自体は、とても大切です。
ですが、現場を見ていると、
マニュアルがある=人が育つ
とは、必ずしもなっていません。
「見てもらえないマニュアル」になっていないか
忙しい時間帯が続く現場では、
- マニュアルを見る時間がない
- 結局、口頭説明に頼ってしまう
- 実際の動きと内容がズレている
こうした状況が、
少しずつ積み重なっていきます。
結果として、
「マニュアルはあるけど、使われていない」
という状態になりがちです。
マニュアルは「余裕があって初めて機能する」
マニュアルは、
決して魔法の道具ではありません。
現場に余裕があって初めて、
活きてきます。
- 一緒に確認する時間がある
- 実際の動きと照らし合わせられる
- 分からないところをその場で聞ける
こうした環境がなければ、
マニュアルは「読むだけの資料」になってしまいます。
結局「人」がいないと回らない
どれだけ丁寧なマニュアルを作っても、
現場でフォローする人がいなければ、教育は進みません。
忙しいときほど、
「とりあえずこれ見ておいて」
「あとで聞いて」
という対応になりがちですが、
新人にとっては、
「放置された」と感じるきっかけ
にもなります。

マニュアルは、
教育を“楽にするもの”ではなく、
教育を“支えるもの”です。
マニュアルより大事なのは「教える余白」
現場で本当に必要なのは、
マニュアルを使える余白があるかどうか
です。
- 新人と一緒に立ち止まれるか
- 間違えてもその場で修正できるか
- 焦らせずに進められるか
この余白がなければ、
どんなマニュアルも、
人を育てる力を発揮できません。
教育がうまくいかないと「辞めやすくなる」

教育がうまく回っていない現場では、
新人が抱える感情に、ある共通点があります。
それは、
常に不安を抱えたまま働いているという状態です。
新人は「分からない」を抱えたまま立っている
新人の立場になって考えてみると、
現場には分からないことだらけです。
- これで合っているのか分からない
- 今、聞いていいタイミングなのか迷う
- 迷惑をかけていないか気になる
教育がうまく機能していない現場では、
こうした不安が解消されないまま、
時間だけが過ぎていきます。
本人は真面目にやろうとしているのに、
「常に不安」「常に手探り」
この状態が続くと、
精神的な負担は確実に積み重なります。
「続けたい」より「辞めたほうが楽かも」が勝つ瞬間
最初のうちは、
「早く覚えよう」
「役に立ちたい」
という気持ちで頑張っています。
ですが、
不安が解消されないまま日々が続くと、
「この状態がずっと続くなら、辞めたほうが楽かもしれない」
という考えが、少しずつ顔を出します。
この時点で、
本人の中では、
「向いていない」
「自分には無理だった」
という結論に、
無意識のうちに近づいていきます。
早期離職が生む、現場の悪循環
こうして起きるのが、
早期離職です。
結果として、現場では、
- また人が足りなくなる
- 教える余裕がさらに減る
- 次の新人も育てにくくなる
という悪循環に入っていきます。
そして、
「最近の新人はすぐ辞める」
「我慢できない人が多い」
という言葉だけが、
現場に残ってしまいます。

辞めやすいのは、
根性がないからではありません。
不安を抱えたまま働くのが、
それだけしんどいということです。
副業・短時間人材が教育を難しくしている側面

ここ数年で、
店舗で働く人たちの働き方は大きく変わりました。
フルタイムで長く働く人よりも、
- 週2〜3日だけ働く
- 短時間だけ入る
- 副業としてシフトに入る
こうした働き方が、
当たり前になりつつあります。
この変化自体は、
決して悪いことではありません。
ただし、現場教育の視点で見ると、
確実に難易度は上がっていると感じます。
「前回教えた内容」を前提にできない
短時間・少日数で働く人の場合、
- 前回のシフトから時間が空く
- 記憶がリセットされやすい
- 経験の積み上げが遅い
といった特徴があります。
そのため、
「前回ここまで教えたから、次はこれ」
という教育の進め方が、
成り立ちにくくなります。
教える側としては、
「どこまで分かっていたっけ?」
「ここ、もう一度説明したほうがいいかな?」
と、毎回探りながら進めることになります。
教える側の負担が、知らないうちに増えている
この状況が続くと、
- 同じ説明を何度も繰り返す
- 教える人ごとに伝え方が変わる
- 教育が属人化しやすくなる
といった問題が起きます。
結果として、
教える側の負担が増え、
「教育は大変」「教えるのがしんどい」
という空気が、
現場に広がっていきます。
本人は「できていない」と感じやすい
一方で、教わる側も、
「何度も同じことを聞いて申し訳ない」
「自分だけ覚えられていない気がする」
と感じやすくなります。
短時間勤務であるがゆえに、
ケースも少なくありません。

働き方が変わったのに、
教え方だけが昔のままだと、
どうしても無理が出てきます。
「覚えてもらう前提」を見直す必要がある
副業・短時間人材が増えた今、
教育に求められる考え方も変わってきています。
これまでのように、
「何度かやれば覚える」
「自然と慣れる」
という前提では、
教育が追いつきません。
覚える負担を減らす仕組み
思い出しやすい導線
こうした工夫が、
これからの現場では、
より重要になっていきます。
教育を回すために最低限必要な3つの視点

ここまで見てきたように、
教育がうまくいかない原因の多くは、
「人」ではなく「構造」にあります。
では、
忙しい現場の中で、
何から手を付ければいいのでしょうか。
私が現場で感じているのは、
完璧な教育体制を作る必要はない、ということです。
まずは、
最低限、この3つの視点があるかどうか。
ここを押さえるだけでも、現場は大きく変わります。
①「誰が教えるか」を決めているか
教育がうまく回らない現場で、
一番多いのがこのケースです。
「空いている人が教える」
「その場にいる人が対応する」
一見、合理的に見えますが、
新人にとっては、
- 人によって言うことが違う
- 基準が分からない
- 誰を頼ればいいか迷う
という不安につながります。
完璧でなくて構いません。
「まずはこの人に聞けばいい」
この軸が一本あるだけで、
新人の安心感は大きく変わります。

教え方の上手さより、
「誰に聞けばいいか分かる」ことの方が、
新人にとっては大事だったりします。
②「最初から全部教えようとしない」
真面目な現場ほど、
最初にすべてを教えようとしがちです。
ですが、新人の立場で考えると、
情報が多すぎること自体が負担
になります。
・まずはここだけできればOK
・今日はこれが分かれば十分
と、
段階を区切ることが大切です。
「全部できないとダメ」ではなく、
「一つずつ積み上げていく」
この考え方に変えるだけで、
新人の表情はかなり変わります。
③「聞いていい空気」を作れているか
どれだけ教える内容を整理しても、
聞きづらい空気
があると、教育は止まります。
- 忙しそうで声をかけられない
- 聞くと嫌な顔をされそう
- 何度も聞くのが申し訳ない
こうした不安があると、
新人は分からないまま動くようになります。
だからこそ、
「聞いていいよ」「何回でも大丈夫」
というメッセージを、
言葉と態度の両方で伝える必要があります。
教育が回り出すと、定着率は自然に上がる

「人がすぐ辞める」
この悩みを抱えている現場ほど、
定着と教育を、別の問題として考えてしまいがち
です。
ですが、現場を見ていると、
この2つは、ほぼ一直線でつながっています。
「分かるようになった瞬間」に表情が変わる
新人を見ていて、
はっきりと分かるタイミングがあります。
それは、
「あ、分かったかも」
という瞬間です。
- 作業の流れがつながった
- 判断の基準が見えた
- 一人で対応できた
こうした体験を一度でもすると、
新人の表情や動きは、
明らかに変わります。
この「分かる体験」が積み重なると、
不安よりも、安心のほうが大きくなる
ようになります。
「迷惑をかけている」から「役に立てている」へ
教育がうまくいっていない状態では、
新人は常に、
「自分は迷惑をかけているのではないか」
という気持ちを抱えています。
ですが、
- できることが増える
- 頼まれる場面が出てくる
- 感謝の言葉をかけられる
こうした経験を重ねることで、
「ここにいていい」
「自分の居場所がある」
と感じられるようになります。
この感覚こそが、
定着につながる一番の要素です。

辞めない理由は、
給料だけではありません。
「自分が必要とされている」と感じられるかどうかです。
定着すると、現場に余裕が生まれる
人が定着し始めると、
現場には、少しずつ余裕が生まれます。
- 教え直しが減る
- 連携が取りやすくなる
- 突発対応が少なくなる
この余裕が、
さらに教育を回しやすくする
という、良い循環を生みます。
教育 → 定着 → 余裕 → さらに教育
この流れができ始めると、
現場の空気そのものが変わっていきます。
教育と定着をテーマ別に整理すると
現場で見えてきた課題は、
一つの原因ではなく、いくつかの要素が重なっています。
- 教育が難しい理由
→ 年代ごとの前提が違う現場のリアル

- マニュアルが機能しない理由
→ マニュアルでは人は育たないという現実

- 定着の考え方
→ 時間帯によってまったく違う定着の正体

- 主婦層に頼りすぎるリスク
→ 朝昼シフトが一気に崩れる構造

- 学生・副業層の活かし方
→ 選んで残る人たちの定着理由


人手不足が起きる理由
→ なぜ人手不足は起きるのか?現場で見えた店舗経営のリアルな原因

まとめ|人が育たないのではなく、育つ環境を作れているか

ここまで見てきたように、
新人が育たない、すぐ辞めてしまう原因は、
必ずしも本人の能力や意欲だけにあるわけではありません。
むしろ多くの場合、
育ちにくい環境を、現場が無意識のうちに作ってしまっている
というケースがほとんどです。
「教える時間がない」は、誰の責任でもない
忙しい現場では、
「教える時間がない」
「余裕がない」
と感じるのは、決して特別なことではありません。
それ自体が悪いわけでも、
誰かの努力不足でもありません。
ただ、その状態が続いたままでは、
教育も定着も、うまく回らない
という現実があるだけです。
見直すべきは「人」ではなく「構造」
人が育たないとき、
つい
「最近の人は…」
「向いていないのかも」
と考えてしまいがちです。
ですが一度、視点を変えて、
- 誰に聞けばいいか分かるか
- 一度に詰め込みすぎていないか
- 聞いていい空気があるか
こうした現場の構造を見直してみてください。
ここが整い始めると、
新人の表情や動きは、確実に変わってきます。

人を変えようとするより、
環境を少し変えるほうが、
現場はずっと楽になります。
教育が回る現場は、結果として強くなる
教育が回り始めると、
- 定着率が上がる
- 現場に余裕が生まれる
- さらに教育しやすくなる
という好循環が生まれます。
これは、
一部の優秀な店だけができることではありません。
小さな見直しの積み重ねで、
どの現場でも、少しずつ作っていけるものです。
人手不足の今だからこそ、
採用の前に、教育の土台を見直す。
それが結果的に、
辞めない現場、強い現場を作る一番の近道だと、
私は感じています。
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