最低賃金が低い地域で人が集まらない理由|県境店舗で見えた現場の現実
「なかなか人が集まらない」
そう感じている店舗は、今でも多いと思います。
求人を出しても応募が来ない。
来たとしても、すぐに辞めてしまう。
条件を少し良くしても、状況はあまり変わらない。
私の店も、決して例外ではありません。
特に特徴的なのが、
県境に位置する店舗を運営していることです。
この立地で店を続けていると、
人手不足の原因が、
「人がいないから」ではなく、
「人が流れていく方向が、すでに決まっている」
という事実だと、はっきり気づかされます。
最低賃金が低い地域での人手不足は、
努力不足や気合の問題ではありません。
現場で実際に起きていることを、
できるだけ感情論を排して整理していきます。
県境では「最低賃金の差」がそのまま人の流れになる

最低賃金が低い地域で人が集まりにくい理由は、
とてもシンプルです。
人がいないのではなく、
人が“高いほう”へ流れているだけ。
特に県境にある店舗では、
この影響が、かなり分かりやすく表れます。
「少し動くだけ」で時給が変わる現実
県境に位置する店舗の場合、
- 川を一本渡る
- 自転車で少し走る
- 電車で一駅移動する
それだけで、
最低賃金が高いエリアで働ける状況が生まれます。
働く側から見れば、
「同じ時間働くなら、
少し移動してでも時給が高いほうを選ぶ」
これは、ごく自然な判断です。

県境の店は、
同業他社と戦っているというより、
“隣県の最低賃金”と戦っている感覚です。
同じ時間働くなら「賃金が高いほう」を選ぶのは当然
この状況で、
「なぜ、うちの店には人が来ないのか」
と悩むのは、
少し視点がズレているかもしれません。
なぜなら、
- 仕事内容は大きく変わらない
- 責任の重さも似ている
- 勤務時間も同じ
それなら、
条件が良いほうを選ぶのは当たり前だからです。
これは、
やる気の問題でも、
根性論でもありません。
ごく合理的な選択です。
若い世代ほど「稼げる場所」を冷静に選んでいる
最近の若い世代を見ていると、
「とりあえず働く」よりも、
「どこで働くのが一番効率的か」
を、かなり冷静に考えています。
- 同じ4時間なら、時給が高い場所
- 条件が分かりやすい職場
- 割に合わない仕事は避ける
こうした基準で、
働く場所を選ぶ傾向が強くなっています。
加えて、
- きつい
- 汚い
- 危険
いわゆる3Kと呼ばれる仕事は、
さらに避けられやすくなっています。

「昔はやった」「自分たちは耐えた」
この感覚のままだと、
今の採用はうまくいかないと感じます。
最低賃金が低い地域の店舗は「不利なスタートライン」に立っている
正直に言うと、
最低賃金が低いエリアにある店舗は、
最初から不利なスタートラインに立たされています。
どれだけ真面目に運営していても、
賃金差という構造的な壁は、
簡単には埋まりません。
だからこそ大事なのは、
「どうやって賃金で勝つか」ではなく、
「賃金以外で、どう選ばれるか」
という視点です。
次は、
多くのオーナーが一度は考える
「賃金を上げれば解決するわけではない理由」
について、
もう一段踏み込んで整理していきます。

賃金を上げれば解決するわけではない

県境や最低賃金差のある地域で人が集まらないと、
真っ先に浮かぶのが、
「時給を上げればいいのでは?」
という考えです。
もちろん、賃金は重要です。
ただ、現場で見ていると、
賃金を上げれば解決するほど単純ではないのも事実です。
上げても「すぐ追随される」問題がある
最低賃金に差がある県境では、
こちらが時給を上げても、
- 周辺店もすぐ上げる
- さらに高いエリアが選ばれる
という流れになりやすいです。
つまり、
賃金だけで勝負すると、
終わりのない消耗戦
になってしまいます。

時給を上げた瞬間は反応が出ても、
数週間〜数ヶ月で“元の状況”に戻ること、あります。
賃金アップは「人件費の固定化」につながる
もうひとつ大事なのが、
賃金は上げると、基本的に戻しにくいということです。
一度上げれば、
- 人件費が恒常的に増える
- 利益率が下がる
- 他の投資(設備・教育・販促)が削られる
という影響が出ます。
さらに怖いのは、
賃金を上げたのに「人が定着しない」場合です。
この状態になると、
- 人件費は増えた
- 採用もできない
- 現場の負担も減らない
という、かなり苦しい形になります。
賃金より先に「辞める理由」を潰さないと意味がない
現場でよくあるのが、
「採用できたけど、すぐ辞めた」
というケースです。
これ、賃金の問題というより、
- 忙しさのイメージが違った
- 教えてもらえない/聞けない
- 人間関係がしんどい
- 思っていたより負担が大きい
という現場の体験で辞めています。
つまり、
賃金を上げる前に、
「辞める理由」を先に潰す
ここをやらないと、
いくら賃金を上げても、穴の空いたバケツ状態になります。

人が来ないのも苦しいですが、
来たのに辞めるのはもっと苦しい。
採用コストも、現場の心も削れます。
「賃金で勝てない地域」ほど、別の価値が必要になる
最低賃金が低い地域にいる店舗は、
構造的に、賃金で勝ちにくい立場です。
だからこそ、
- 働きやすさ
- 覚えやすさ
- 相談しやすさ
- 安心して続けられる空気
こうした賃金以外の価値を強くする必要があります。
では、賃金以外の価値とは何なのか。
次は、最低賃金が低い地域でも
「それでも人が集まる店舗に共通していること」を整理します。

それでも人が集まる店舗に共通していること

最低賃金が低く、
立地的にも不利。
そんな条件の中でも、
不思議と人が集まる店舗は存在します。
しかも、
そうした店は「高い時給」を出しているとは限りません。
では、何が違うのか。
現場で見えてきた共通点を整理します。
募集していないのに「働きたい」と言われる店がある
実際に現場では、求人を出していないのに
お客さんのほうから「ここで働けますか?」と聞かれる
そんな店舗が、確かに存在します。
私の店でも、
小学生・中学生の頃から利用してくれていた子が、
高校生になったタイミングで
「ここで働きたい」と声をかけてくれる
そんなケースが、決して珍しくありません。
これは、
賃金だけでは説明できない現象です。

「働きたい」と言われる瞬間、
ああ、普段の積み重ねって大きいなと感じます。
「この店なら安心して働けそう」と思われている
人が集まる店に共通しているのは、
特別な制度や派手な取り組みではありません。
むしろ、
- 接客の雰囲気が穏やか
- 店内がピリピリしていない
- スタッフ同士の関係が悪くなさそう
- 働いている人の表情が暗くない
こうした日常の空気感です。
求職者は、
時給表よりも先に、
「ここなら長く続けられそうか」
を、直感的に判断しています。
仕事の「教え方」と「任せ方」が決定的に違う
人が集まり、定着する店舗は、
新人への向き合い方が共通しています。
- 最初から完璧を求めない
- 一度に教えすぎない
- 「今はここまででOK」と区切る
- 必ず誰かがフォローに入る
逆に、
「一回で覚えて」
「前も言ったよね」
こうした空気がある店では、
どれだけ時給が良くても、
人は定着しません。

人が辞める理由って、
仕事内容より「人との関わり」が多いんですよね。
忙しい時ほど「余裕のある振る舞い」をしている
意外かもしれませんが、
人が集まる店ほど、忙しい時の対応が違います。
- 声かけが荒くならない
- ミスを責めない
- フォローが自然に入る
完璧ではなくても、
「一人にしない」
「放置しない」
この姿勢が、店の空気を作ります。
最低賃金が低くても「選ばれる理由」は作れる
最低賃金の差は、
個人の努力で埋められるものではありません。
ですが、
- 賃金で勝とうとしない
- 条件以外の価値を明確にする
- 長く働ける環境を作る
この視点を持つことで、
最低賃金が低い地域でも、
選ばれる店になる余地はあります。

「なぜ来ないか」より、
「なぜ残ってくれているか」。
ここにヒントがあります。
次は最後に、
最低賃金が低い地域で経営する上で
特に大切にしたい視点をまとめます。

最低賃金が低い地域で経営する上で大切な視点

最低賃金が低い地域での人手不足は、
努力不足や工夫不足だけで解決できる問題ではありません。
最低賃金の差は、
個人や一店舗の努力で埋められるものではない
という前提に立つことが、まず重要です。
「賃金で勝とう」としすぎない
賃金を上げること自体は、
決して悪い選択ではありません。
ただし、
最低賃金が低い地域で、
賃金だけで勝とうとするのは、かなり厳しい戦い
になります。
賃金競争に入ると、
- すぐに追いつかれる
- 利益が削られる
- 経営の余力がなくなる
という流れに陥りやすく、
結果的に、現場も経営も苦しくなります。

賃金は大事。
でも、それだけに頼ると、
長く続けるのが本当にしんどくなります。
条件以外の「価値」をはっきりさせる
最低賃金で不利な地域ほど、
「それでも選ばれる理由」を
意識的に作る必要があります。
- 安心して働ける雰囲気
- 教えてもらいやすい環境
- シフトの相談がしやすい
- 人間関係で消耗しない
こうした価値は、
求人票に大きく書かれなくても、
必ず伝わります。
特に、
「ここなら長く続けられそう」
「ここなら無理せず働けそう」
という感覚は、
賃金以上に、選ばれる理由になります。
「なぜ来ないか」より「なぜ残っているか」を見る
人手不足に悩むと、
どうしても
「なぜ人が来ないのか」
に意識が向きがちです。
ですが、現場で役に立つのは、
むしろ逆の視点です。
「なぜ、この店に残ってくれているのか」
今いるスタッフが、
- なぜ続けてくれているのか
- 何を良いと感じているのか
- どこに安心感を持っているのか
ここを丁寧に見直すことで、
この店ならではの「強み」が見えてきます。

辞めた理由より、
残っている理由のほうが、
よっぽどヒントになります。
まとめ
県境にある店舗や、
最低賃金が低い地域では、
最低賃金の差が、
そのまま人の流れを作ります。
この構造を理解せずに、
人手不足を語ることはできません。
- 若い世代は合理的に働く場所を選ぶ
- 賃金だけでは人は定着しない
- それでも選ばれる店は存在する
最低賃金が低い地域でも、
「働く場所として選ばれる理由」を
積み重ねていくことはできます。
派手な施策ではなく、
日々の運営、日々の向き合い方。
それが、
長く続けるための、
一番現実的な道だと感じています。
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