米が半値になった理由と、うちが廃棄の山を築いた理由は、同じだった|「親不孝相場」とバズ発注——農家は年1回、コンビニは毎日【現役オーナー】
コメの値段が、壊れるように下がっています。
卸同士がやり取りするスポット価格は、新潟県産コシヒカリが玄米60キロあたり1万8,750円前後と、昨年10月上旬から49%安。秋田県産あきたこまちは55%安で、主要銘柄はほぼ半値になりました(2026年8月22日時点・報道ベース)。新潟では8月18日、JA全農にいがたが2026年産一般コシヒカリの概算金を前年比約4割安の1万8,500円に決定——全農にいがた自身が「過去に例がない下落率」と言う水準です。
そして業界には、この状況を指す忘れられない言葉があります。「親不孝相場」——新米(子)が、古米(親)より安くなってしまう相場のことです。
2週間前の記事で「米は下がり始めた」と書きましたが、正直、ここまでの速度は想定していませんでした。ただ——この暴落のニュースを読みながら、私は別のことを考えていました。高値→増産→過剰→投げ売り。このメカニズム、レジで見覚えがある、と。
売り切れが2日続いて、「これいけるんじゃね?」と発注を増やした。その納品日が週末で、売れ残って、廃棄の山を築いた——うちのバズ発注の失敗と、米の暴落は、構造がまったく同じなのです。
この記事は、米の暴落を解説する記事であると同時に、自分の発注の失敗を告白する記事です。そして最後に、農家と私たちの決定的な違い——向こうの修正機会は年1回、こっちは毎日——という、耳の痛い話で締めます。
- ニュース整理——半値と「親不孝相場」
- なぜ暴落したか——「儲かった2025年」が作った2026年
- うちも同じことをやった——バズ発注と廃棄の山
- 決定的な違い——農家は年1回、コンビニは毎日
- 発注の打ち手4つと、「在庫はポジション」という考え方
- 9月、レジで聞かれること——答えを先に持っておく
※価格・統計は2026年8月22日時点の報道・公表情報に基づきます。自店の失敗談と判断は私の店での実例・実感です。
🎥 この記事の要点を動画にまとめました(音声解説つき)。結論から知りたい方はまずこちらをどうぞ。
🎧 もっと深く:対話型の音声解説(約19分)
この記事をもとにAIが対話形式で深掘りした音声です(Gemini Notebook〈旧NotebookLM〉で生成)。運転中や作業中の「ながら聞き」にどうぞ。
第1章:ニュース整理——半値と「親不孝相場」
数字の全体像
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 新潟コシヒカリ・卸間スポット価格 | 玄米60キロ 1万8,750円前後(昨年10月上旬比▲49%) |
| 秋田あきたこまち・同 | ▲55%(主要銘柄はほぼ半値) |
| 早場米のJA集荷価格(九州・四国) | 前年比2〜4割安。宮崎・高知では1万円台も |
| 業界団体が示した生産コスト | 2万535円(2026年4月時点)——それを下回る価格で売られている |
| 新潟の2026年産概算金 | 1万8,500円(約4割安・8月18日決定)「過去に例がない下落率」 |
| 平均店頭価格(8月10〜16日) | 精米5キロ3,191円(ピークの昨年末年始から3割安) |
「令和のコメ騒動」で集荷競争が過熱した2025年産の集荷価格は3万円前後まで跳ねました。それが1年で2万円割れ。玄米60キロ2万円割れが定着すれば、店頭の5キロ3,000円割れが見えてくる——前回記事で「目前」と書いた節目に、想定より速く近づいています。
「親不孝相場」——新米が、古米より安い
そして今回の主役の言葉です。新米が前年産の古米より安くなることを、業界では「親不孝相場」と呼びます。コロナ禍で外食が止まった2020〜21年産などにも起きた現象です。
なぜ「親不孝」が厄介なのか。平時の序列は「新米は高い、古米は安い」で、古米には「安いからこれでいい」という存在理由がありました。それが反転すると——古米は、品質でも価格でも新米に負ける在庫になります。棚に2種類並んだ瞬間、お客様は一瞬で気づく。新しいほうが安い棚では、古いほうは値段をいくら下げても売れない。だから大手卸の担当者は「大赤字でも安売りするしかない」と漏らす。いま起きている投げ売りの正体は、これです。
第2章:なぜ暴落したか——「儲かった2025年」が作った2026年
当たり年の算数
前提として、2025年は米農家にとって記録的な「当たり年」でした。単純な算数で見えます。25年産の集荷価格は3万円前後。生産コストの目安は2万535円。1俵あたり約1万円の利幅です(あくまで概算で、統計での確定は今年12月頃に公表される2025年分を待つ段階ですが、公表済みの2024年分の時点で稲作所得は大きく増えており、方向は明らかです)。
ここで大事な注意をひとつ。「農家が儲けすぎた」という話にはしません。同じ高騰局面で、「時給10円」を訴える小規模農家と、1,000万円超の所得を得た大規模事業者が同時に存在したと報じられています。売る量がなければ米価が倍でも手取りは増えないし、事前契約で単価を固定していた農家は高値を取れていない。肥料も燃料も農機も上がっている。全員が儲かったわけでは、まったくないのです。
高値→増産→過剰→暴落——古典的な循環
では何が起きたか。3万円という価格は、「もっと作れ」というシグナルそのものでした。農家はそのシグナルに、合理的に反応した。作付が増え、記録的なコメ余りになり、新米が出る前に25年産の在庫が投げ売りされ、概算金は4割下がった——。
高値→増産→過剰→暴落。農産物では古くから知られた循環で、経済学では「クモの巣理論」という名前までついています。欲の話ではありません。一人ひとりの判断はどれも合理的なのに、全員が同じシグナルに同時に反応すると、総量として不合理になる——構造の話です。
しかも今回は、もう一段たちが悪い。3万円というシグナル自体が、水増しされていたのです。あの価格には、純粋な消費需要だけでなく、買いだめと集荷競争——つまり投機的な成分が乗っていた。実需ではない成分を含んだ数字を見て、増産の判断がなされた。ここを覚えておいてください。次の章で、この構図とそっくりなものがレジに出てきます。
第3章:うちも同じことをやった——バズ発注と廃棄の山
実録・やらかしのパターン
白状します。弁当・おにぎり・パン——中食のバズ商品では、ほとんどやらかしています(笑)。パターンは、恥ずかしいくらい毎回同じです。
- 話題の新商品。初回は控えめに発注する(それでも通常の新商品よりは多めに)
- 早々に売り切れる。「たまたまかな」と思う
- 翌日も売り切れる。——「これ、いけるんじゃね?」
- 発注を増やす。その納品日が、週末
- 売れ残る。廃棄の山
SNSで大きな話題になった名物おにぎりのときも、コラボ系のパンのときも、何度も。そして経験則として身についたのがこれです——この手の商品は、1週間持てば良い方。白黒ポテチの記事で「話題の山は4週で消えた」と書きましたが、賞味期限が1日の中食では、バズの寿命はもっと短い。話題は、デイリーの棚では1週間の商材なのです。
米の暴落と、1行ずつ対応している
さて、この失敗を第2章の構図と並べてみます。ぞっとするほど、1行ずつ対応します。
| 米の暴落 | うちのバズ発注 |
|---|---|
| 集荷価格3万円という高値シグナル | 売り切れが2日続いた |
| シグナルに投機成分(買いだめ・集荷競争)が混入 | 売れ行きの大半は初回試買(リピートではない) |
| 「もっと作れ」と増産を判断 | 「これいけるんじゃね?」と増発注 |
| 田植えは春、収穫は秋——判断と着地に時間差 | 発注した日と納品日がずれ、着地が週末 |
| 全農家が同時に増産(合成の誤謬) | 他店も他チェーンも、同じSNSを見て同時に積んでいる |
| 記録的なコメ余り→投げ売り | 売れ残り→廃棄の山 |
とくに効いているのが、シグナルの水増しです。売り切れ2日という数字の中身は、「一度食べてみたい」という初回試買がほとんどで、リピート需要ではない。実需ではない成分を含んだ数字を見て発注を増やした——私は、3万円を見て増産した農家と、厳密に同じことをやっていたわけです。
そしてもうひとつ。「競合もドラッグストアも、みんな置いている」という状況は、心理的には「自分の判断は正しい」という安心材料に感じられます。でも実際には、全員が同時に積んでいる=供給過剰が来る前触れ。農家が見落としたのも、まさにこれでした。いちばん安心な瞬間が、いちばん危ない。

弁当・おにぎり・パンの中食商品は、ほとんどやらかしてますよ(笑)。初回は控えめに発注していたら早々に売り切れ。たまたまだと思ったら翌日も売り切れ。「これいけるんじゃね?」って思って増やした発注の納品日が週末で、売れ残り——この手の商品って、1週間持てば良い方じゃないの?って思ってます。米のニュースを読んで、利益が出ているときに在庫の消化が追いつかなくなる構図、うちの廃棄の山と似てるなあと。欲というより、同じ構造にはまってたんだなって。
第4章:決定的な違い——農家は年1回、コンビニは毎日
農家には、構造的に逃げ場がない
同じ罠にはまった者同士。でも、ここで「農家でさえこうなるんだから仕方ない」と自分を慰めるのは、間違いだと思っています。なぜなら、決定的な違いが一つあるからです。
農家の意思決定は、年1回です。春に田植えをしたら、次の修正機会は12か月後。夏に「間違えた」と気づいても、その年はもう何もできない。構造的に、逃げ場がありません。だからクモの巣理論の循環は、農産物で最も強く現れるのです。
私たちは、修正機会を年100回以上持っている
対して、コンビニの発注は毎日です。農家が1年に1回しか持てない修正機会を、私たちは年に100回以上持っている。
だとすれば、廃棄の山の正体も変わってきます。あれは一発の読み違いではなく、「気づいてから何日も発注を戻さなかった」ことの蓄積です。売れ行きが鈍り始めた日はあったはずで、翌日に戻すチャンスもあったはずで、それを何日か見送った結果が、あの山だった。
しかもデイリー商品は24時間で価値がゼロになります。損の出方は速い——でも裏を返せば、答え合わせも1日で返ってくる。判断の成否が翌日わかる商売は、秋まで結果がわからない商売より、圧倒的に有利な条件です。
だから、この比喩の結論はこうなります。同じ罠にはまったのだとしたら、それは持っていた修正機会を使わなかったということ。こっちには、言い訳がきかない。
第5章:発注の打ち手4つと、「在庫はポジション」という考え方
バズ発注の修正装置——4つ
では、修正機会を使うとは具体的に何か。米の暴落から逆算した、4つの装置です。
- 売上の「水準」ではなく「伸び率の変化」を見る——「まだ売れている」は遅すぎます。売上のピークより、伸び率のピークのほうが先に来る。前日比の伸びが鈍り始めた日が、実際の天井です
- リピートかトライアルかを分ける——同じ人が2回買っているのか、初めての人が1回ずつ買っているのか。後者だけで積み上がった数字は、母集団を舐め尽くした瞬間に垂直に落ちます。発売から日数が経ってもリピートが立ち上がらなければ、答えは出ています(トライアル×リピートの記事の実戦版です)
- 増やすのは遅く、減らすのは速く——欠品の損は「売れたはずの利益」、過剰の損は「実際に出ていった現金」。痛みが非対称なのだから、対応も非対称でいい。上げるときは慎重に、下げるときは躊躇なく
- 「みんな置いている」を警報として読む——安心の合図ではなく、供給過剰の前触れとして
在庫を持つとは、「下がらない」ほうに賭けること
そして、今回の親不孝相場が教えてくれる在庫の一般則です。
在庫を持つというのは、「価格は下がらない」ほうに賭けたポジションを持つこと。
普段は意識しませんが、下げトレンドがはっきりした市場では、「様子を見る」という判断は中立ではありません。何もしない=下がらない方に能動的に張っている状態です。しかも下げ相場では、在庫の常識が逆転します。待つほど必要な値引き幅は大きくなる。今週の値引きは、来週の値引きより安く済む——早く捌くことが、最小の損なのです。
実践編——うちの米袋(2キロ・5キロ)の判断
これを、自店の棚で実際にやっています。うちの店には精米の2キロ袋・5キロ袋があります。現状は——新米がまだ棚にないので、売れてはいます。比較対象が存在しないからです。でも、新米が並んだ瞬間に「親不孝相場」は店の棚で再現される。だから判断は2つ決めました。
- 25年産の追加発注は、もう止めました
- 本部から新米の入荷時期の案内が来たら、その日から逆算して値引きで捌きます——「新米の入荷日=古米の値引き開始日」を先に決めておく、ということです
なお、コンビニの精米は在庫量の大きなカテゴリーではないので、ここに経営の注意を全部持っていく話ではありません。絶対額の損は知れています。本当の論点は、在庫を持っていない側——おにぎりと弁当のほうにあります。それが最終章です。

うちも2キロ・5キロの米袋を置いていますが、現状は新米がまだ無いので、売れてはいるんですよ。ただ、追加発注はもう止めています。本部から新米の入荷時期の案内が来てから、値引きで対応かなと考えています。新米が並んだ日に、隣の古い袋が高いまま——あの棚だけは作りたくないので。入荷日から逆算して、先に動くつもりです。
第6章:9月、レジで聞かれること——答えを先に持っておく
「米はあんなに安くなったのに、なんでおにぎりは高いの?」
9月、新米が本格的に出回ります。消費者は「米が安くなった」というニュースを大量に浴び、店頭の精米が3,000円を割れば、それは誰の目にも見える形で確定します。
そのとき、レジで必ず聞かれる質問があります。
「米はあんなに安くなったのに、なんでおにぎりは高いままなの?」
前回の記事で書いたとおり、おにぎり・弁当のコメは店の在庫ではなく、本部の調達契約(年単位)で動きます。店は完成品を毎日仕入れるだけなので、原料の値下がり益も損も、店には直接来ない。来るのは契約が切り替わったあと——タイムラグがあるのです。しかも今回は下げ幅が半値と極端なので、質問は「なんとなく」ではなく具体的な数字を伴ってやってきます。
答えの一言を、先に用意しておきましょう。「お米の仕入れは年単位の契約で動いているので、反映には少し時間がかかるんです」——これだけで十分です。そして店として本当にやっておく価値があるのは、中食の価格改定・増量がいつ入るのかを、本部に確認しておくこと。9月に聞かれる前に、答えを持っている店でいられるかどうかです。
逆回転の競争に、受け身にならない
もうひとつ。原価が下がれば、必ずどこかが動きます。コメ高騰期の各社の対応は「小さくする・値上げする」でした。今度は逆回転——増量、値頃価格の復活といった「攻め」が出てくる可能性が高い。
そのとき、下がった原価を何に使うのか。値下げか、増量か、品質か、粗利か。前回の記事で書いた見立てのとおり、1年で±5割振れる原料を前提に、全部を値下げに使うのは危険です(次に反転したとき、戻せません)。粗利に置くか、増量など戻しやすい形で還元するか——本部の設計を見つつ、自店は値頃品を切らさないという基本([6656]の結論)を守る。それが受け身にならない構えだと思います。

9月になったら、「米は安くなったのにおにぎりは高いね」って、絶対に聞かれると思うんですよ。だから答えは先に持っておきます。仕入れは年単位の契約だから、反映には時間がかかるんです、と。それと、自分の発注の話としては——農家さんは修正機会が年に1回しかない。うちは毎日ある。だから今回の米の話は、他人事の評論じゃなくて、「毎日直せるのに直さなかった日はなかったか」って、自分の発注表に返ってくる話なんですよね。言い訳がきかないぶん、明日から直せる。そういう商売でよかったと思うことにします(笑)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「親不孝相場」とは何ですか?
新米(子)が前年産の古米(親)より安くなる相場を指す業界用語です。コロナ禍の2020〜21年産などでも起きました。新米が極端に安いと、在庫として残る高い古米は価格でも品質でも勝てなくなり、いくら値下げしても売れない——だから新米流通前に投げ売りが起きます。2026年8月時点で、卸間スポット価格は主要銘柄が昨秋比ほぼ半値まで下落しています。
Q2. なぜここまで暴落したのですか?
2025年産が集荷競争で3万円前後まで高騰し、その価格シグナルを受けて2026年産の作付が増え、記録的なコメ余りになったためです。高値→増産→過剰→暴落という農産物の古典的な循環(クモの巣理論)で、新潟の概算金は約4割安の1万8,500円と「過去に例がない下落率」になりました。
Q3. 農家が儲けすぎたせい、ということですか?
そうは考えていません。3万円という価格は「もっと作れ」というシグナルで、増産はそれへの合理的な反応です。しかも同じ高騰局面で「時給10円」を訴える小規模農家と高所得の大規模事業者が同時に存在し、事前契約で高値を取れなかった農家も、コスト高に苦しむ農家もいました。欲の問題ではなく、全員の合理的な判断が総量として過剰を生む「構造」の問題です。
Q4. コンビニのおにぎりや弁当は安くなりますか?
すぐには動きません。中食のコメは本部の調達契約(年単位)で動くため、店頭の精米価格とはタイムラグがあります。原価が反映される局面では、値下げよりも増量や品質向上といった「戻しやすい形」の還元が現実的と見ています。前回記事で書いた「おにぎり全体の値下げにはならず、値頃な商品を数種類」という見立ては維持しています。
Q5. バズ商品の発注は、どこで失敗しやすいのですか?
私の実録では毎回同じパターンです。初回控えめ→早々に売り切れ→翌日も売り切れ→「いけるんじゃね?」と増発注→納品日が週末→売れ残り。売り切れという数字の中身が初回試買(リピートではない)である点、発注判断と納品日に時間差がある点、他店も同時に積んでいる点——米の暴落と構造が同じです。
Q6. バズ商品は、どのくらい売れ続けるものですか?
カテゴリーによります。菓子など賞味期限の長い商品では話題の山が数週間続くこともありますが、弁当・おにぎり・パンなどの中食では、私の経験則で「1週間持てば良い方」です。デイリー商品ほどバズの寿命は短い、という前提で発注の山を設計するのが安全です。
Q7. 発注では、具体的に何を見ればいいですか?
4つです。①売上の水準でなく「伸び率の変化」を見る(伸びが鈍った日が実際の天井)②リピートかトライアルかを分ける③増やすのは遅く、減らすのは速く(欠品の損と過剰の損は非対称)④「みんな置いている」を安心材料でなく供給過剰の警報として読む——どれも、毎日ある修正機会を実際に使うための装置です。
Q8. 店にある古米の在庫(米袋)は、どうすればいいですか?
私の店では、25年産の追加発注を止め、本部から新米の入荷時期の案内が来た時点から逆算して値引きで捌く方針にしました。下げ相場では待つほど必要な値引き幅が大きくなるため、「今週の値引きは来週より安く済む」という通常と逆の判断になります。新米と古米が同じ棚に並ぶ前に動くのがポイントです。
Q9. 「在庫はポジション」とは、どういう意味ですか?
在庫を持つことは「価格は下がらない」ほうに賭けている状態だ、という考え方です。平時は意識されませんが、下げトレンドが明確な局面では「様子を見る」は中立ではなく、能動的に張っているのと同じになります。だから下げ相場では、早く捌くことが最小の損になります。
Q10. この記事の情報は、いつ時点のものですか?
2026年8月22日時点の報道・公表情報(卸間スポット価格・新潟概算金1万8,500円・平均店頭価格3,191円など)に基づきます。失敗談と在庫判断は私の店での実例です。新米の本格流通(9月上旬〜中旬)以降、状況は大きく動く可能性があります。前回記事とあわせて、続報も追っていきます。
まとめ:言い訳がきかない、毎日という武器
コメの卸間価格は昨秋の半値、新潟の概算金は「過去に例がない」4割安、そして新米が古米より安くなる「親不孝相場」へ——原因は、2025年の3万円という高値シグナルに全員が合理的に反応した結果の高値→増産→過剰→暴落(クモの巣理論)です。農家の欲ではなく構造であり、しかも3万円には投機成分が乗っていた。そしてこの構図は、うちのバズ発注の失敗と1行ずつ対応します——売り切れ2日(水増しされたシグナル=初回試買)→「いけるんじゃね?」(増産)→納品日が週末(判断と着地の時間差)→廃棄の山(過剰)。中食のバズは1週間持てば良い方です。ただし決定的な違いがひとつ。農家の修正機会は年1回、コンビニは毎日。だから廃棄の山は読み違いでなく「戻さなかった日々」の蓄積で、こっちには言い訳がきかない。装置は4つ——伸び率の変化・リピート判別・増やすのは遅く減らすのは速く・「みんな置いている」警報。在庫は「下がらない」に賭けたポジションであり、下げ相場では今週の値引きが来週より安い。古米の袋は新米入荷日から逆算して先に動き、9月にレジで聞かれる「なんでおにぎりは高いの?」への答え——仕入れは年単位の契約なので反映には時間がかかる——を先に持っておく。答え合わせが翌日返ってくる商売であることを、武器に変えていきましょう。
この記事の要点
- コメ卸間スポットは昨秋比ほぼ半値・新潟概算金は4割安の1万8,500円「過去に例がない下落率」
- 「親不孝相場」=新米が古米より安い。古米は値下げしても売れない在庫になる
- 暴落の構造=高値3万円→増産→記録的コメ余り→投げ売り(クモの巣理論・欲でなく構造)
- 3万円には投機成分が混入=水増しされたシグナルを見て増産の判断がなされた
- バズ発注の失敗と1行ずつ同じ(売り切れ2日=初回試買のシグナル・納品日の時間差・全員同時積み)
- 中食のバズは「1週間持てば良い方」=デイリーほど話題の寿命は短い
- 決定的な違い=農家は修正機会が年1回、コンビニは毎日→言い訳がきかない
- 装置4つ=伸び率の変化・リピート判別・増やすのは遅く減らすのは速く・「みんな」警報
- 在庫は「下がらない」に賭けたポジション=下げ相場では今週の値引きが来週より安い
- 9月の「なんでおにぎりは高いの?」に答えを先に持つ=仕入れは年単位契約というタイムラグ
次のアクション
- [ ] バズ商品の発注判断を「売上の水準」でなく「前日比の伸びの変化」で見る運用に変える
- [ ] 話題商品は「リピートが立ち上がっているか」を発売数日後に確認する習慣を作る
- [ ] 「増やすのは1段ずつ、減らすのは一気に」という非対称ルールを発注担当と共有する
- [ ] 「競合もみんな置いている」と感じたら、安心せず発注の山を一段下げて構える
- [ ] 店の米袋(精米)は追加発注を見直し、新米入荷案内が来たら逆算して値引き開始日を決める
- [ ] 中食の価格改定・増量の予定を本部・SVに確認しておく(9月に聞かれる前に)
- [ ] レジでの答えの一言「お米の仕入れは年単位の契約なので、反映には時間がかかるんです」を店で共有する
- [ ] 過去のバズ廃棄を1件振り返り、「戻せた日はいつだったか」を発注表で確認してみる
このブログ内の関連記事
米価と中食の行方
バズと発注の教訓
値引き・廃棄・在庫の設計
参考|公式情報
- 農林水産省|米の店頭価格・需給の動向:本文の価格データの一次情報源
- 総務省統計局|家計調査:家庭の米消費を映す消費側データ
- 経済産業省|商業動態統計:小売業販売の公的統計
- 日本フランチャイズチェーン協会(JFA):コンビニ業界の統計・業界情報
- 中小企業庁:小規模事業者向けの経営支援情報
秋になったら、新米の袋が棚に並びます。その隣に、高いままの古い袋を並べない——それが、この相場からうちの店が受け取った、いちばん具体的な宿題です。
そしてもうひとつの宿題は、発注表の中にあります。売り切れの数字に浮かれた日。「みんな置いてるから」と安心した日。鈍り始めた伸びを、もう一日だけ見送った日。米の暴落は、遠い市場の話ではなくて、あの日々の拡大写真でした。
農家さんは、春に決めたら秋まで直せません。私たちは、明日直せます。年に100回以上ある修正機会——それを使う商売とし続けられるかどうか。半値の米が教えてくれたのは、結局、自分の手の中にある毎日の話でした。
言い訳がきかない。でも、明日から直せる。いい商売です。

