1人10分・5項目|10月1日までの店長面談アジェンダ——最賃・扶養・待遇差の説明・カスハラを、1回の面談で済ませる【現役オーナー】
10月は、人に関わる制度がいっぺんに動きます。
(2026年10月2日追記:最低賃金(東京都など多くの都道府県で10月1日に発効)、社会保険の賃金要件の撤廃、同一労働同一賃金の改正、カスハラ対策の義務化は、いずれも10月1日に施行・発効しました。面談で伝える中身は変わりません)
最低賃金は全国平均1,177円に上がる。社会保険の賃金要件が撤廃されて、壁は「週20時間」に移る。カスハラ対応が義務になる。そしてもうひとつ——このブログでまだ一度も書いていなかった制度が動きます。同一労働同一賃金のルール改正です。パートや有期雇用の人に渡す労働条件通知書に、「正社員との待遇の違いについて、説明を求めることができます」と書くことになる。
コンビニは、社員とパートが同じ売場で同じ仕事をしている、典型的な業種です。「なぜ社員には賞与があって、私にはないんですか」——この問いに、資料を見せながら口頭で答えられる準備が要ります。
ただ、制度が4つあるからといって、説明を4回やっていたら現場は回りません。変更は1つずつ、説明してからと書いてきましたが、スタッフ側から見れば、聞きたいことは1つです。「で、私の10月からはどうなるの?」
だから、うちは面談にまとめます。各店舗の店長が、1人5〜10分、店舗の事務所で、5項目。そしてこの面談には、制度の説明よりも大事な役割があります。時給が上がると、扶養の範囲内で働いている人は、同じ上限に早く着いてしまう。つまり働ける時間が減る。全員分の面談を終えたとき、店には「この秋、人時がどれだけ足りなくなるか」という数字が残ります。面談の集計が、そのまま採用計画になるのです。
この記事は、新しい改正の中身を確認したうえで、面談の型・5項目の順番・扶養の計算のやり方・人の補充の判断までを書きます。
- 10月に来るもの——制度ごとではなく、面談1回にまとめる
- 新しい改正の中身——「説明を求めることができる」と書面に書く
- 面談の型——店長が、1人5〜10分、事務所で
- いちばん大事な項目——扶養の計算を、一緒にやる
- 店側の論点——人の補充は、必要か
- 待遇差と本人の意思——「差がない」も、説明できるように
※制度内容は2026年9月19日時点の厚生労働省の公表情報と報道に基づく概要です。私が確認できた範囲を書いており、個別の適用判断・書面の整備は、本部・労働局(総合労働相談コーナー)・社会保険労務士等にご確認ください。扶養の上限額や判定方法は、ご本人・配偶者の勤務先・加入している健康保険によって異なります。試算は前提を明示したモデルです。
🎥 この記事の要点を動画にまとめました(音声解説つき)。結論から知りたい方はまずこちらをどうぞ。
🎧 もっと深く:対話型の音声解説(約18分)
この記事をもとにAIが対話形式で深掘りした音声です(Gemini Notebook〈旧NotebookLM〉で生成)。運転中や作業中の「ながら聞き」にどうぞ。
第1章:10月に来るもの——制度ごとではなく、面談1回にまとめる
人に関わる4つの変更
| 制度 | 10月に起きること | スタッフから見た意味 |
|---|---|---|
| 最低賃金 | 全国平均1,177円へ(多くの都道府県で10月発効) | 時給が上がる |
| 社会保険 | 賃金要件(月8.8万円)が撤廃。残るのは週20時間 | 働き方の上限の考え方が変わる |
| 同一労働同一賃金 | 通知書に「待遇差の説明を求められる旨」を明示 | 疑問を聞いていい、と書面に書かれる |
| カスハラ対策 | 事業主の対応が義務化 | 困ったお客様から、店が守ってくれる |
売場の側でもたばこと酒税が同じ日に動くので、10月1日の店は相当に忙しい。だからこそ、人に関わる4つは9月中に、面談で先に片付けておくのが得策です。
なぜ「面談」にまとめるのか
掲示物や一斉連絡で済ませることもできます。でも、時給も扶養も、1人ひとり数字が違う。採用市場が厳しいなか、「自分の10月」を5分でも個別に説明してもらえた経験は、そのまま定着の理由になります。制度の説明会ではなく、その人の10月を一緒に確認する時間——これが面談にまとめる理由です。
第2章:新しい改正の中身——「説明を求めることができる」と書面に書く
確認できたこと
厚生労働省の公表情報で、私が確認できた範囲を整理します。
- 追加される明示事項:パート・有期雇用の労働者に対して、「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を明示する
- 明示のタイミング:雇い入れたとき。労働契約の更新時も含むとされています
- 違反した場合:この明示に違反した者は、10万円以下の過料に処される(厚生労働省のリーフレットに明記)
- ガイドラインの改正:どんな待遇差が不合理にあたるかを示す指針に、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・福利厚生などの考え方が整理された
- 説明の方法:待遇差の説明を求められたら、「資料を活用し、口頭により説明する方法」か「説明すべき事項を全て記載した分かりやすい内容の資料を交付する等の方法」のいずれかで説明する。口頭で説明する場合も、使った資料は交付することが望ましいとされています
- 求めがない場合の周知:説明の求めがなくても、労働契約の更新時などに、説明を求めることができることを周知するといった対応が「望ましい」とされています
- 施行:2026年10月
あわせて、以前からのルールとして、説明を求めたことを理由にシフトを減らすなどの不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。報道によれば、待遇差の説明を実際に求めたことがある労働者は8%ほど(2023年調査)。罰則はないものの、説明できない待遇差は、裁判で不合理と判断されるリスクを抱えることになる、と指摘されています。ただし、ここでいう「罰則はない」は、待遇差や説明義務そのものの話です。通知書への明示は別で、上に書いたとおり、違反した者は10万円以下の過料に処されます。「通知書に書かなくても罰則はない」ではありません。
うちの場合——無期契約・本部のひな形・社労士なし
これを自店に当てはめます。うちは、労働条件通知書のひな形は本部のものを使用、契約は無期、社労士はついていません。この条件だと、やることは3つに整理できます。
- 新しく採用する人の分:10月1日以降に渡す通知書に、追加の一文が入っている必要がある。本部のひな形が10月対応版になっているかを、本部に確認する
- すでに働いている人の分:無期契約なので「契約の更新時」が来ません。つまり、書面で明示する機会は、私が確認した範囲では新規採用のときだけです。ただし、求められたら説明する義務は、以前から全員に対してある。そこでうちは、既存のスタッフにも、新しい通知書を出し直すことにしました。私が確認した範囲では、既存の無期スタッフへの出し直しを義務とする記載は見当たりません。ただ、厚生労働省の指針には、説明の求めがない場合でも、説明を求めることができることを周知するといった対応が「望ましい」と書かれています。周知は、国が勧めている側の取り組みです。後々のトラブル防止も兼ねて、出し直すほうが賢明だと判断しました。10月は時給も変わるので、新しい時給と追加の一文が入った通知書を、面談の場で手渡す——口頭と書面の両方で「待遇のことで疑問があれば、いつでも聞いてください」と伝えます
- 分からない点:周知は「望ましい」とされていますが、自店の契約形態で書面をどこまで整えるべきかなど、私が確認しきれなかった点は、本部と労働局の総合労働相談コーナーに確認します。社労士がついていない店ほど、ここを自己判断で済ませないほうがいい
出し直すときに気をつけることは3つです。時給と追加の一文以外の条件は変えない(変える必要があるなら、説明して合意を取る)。本部のひな形が10月対応版になってから使う。渡した控えを店で保管する。「言った、言わない」を残さないための出し直しなので、渡した記録まで含めて1セットです。

既存の無期スタッフに書面を出し直す義務があるかどうかは、正直、確認しきれていません。でも、後々のトラブル防止も兼ねて、出し直すほうが賢明かなと。今回うちは、そうしていこうと思っています。
有期契約で更新のある店は、事情が違います。更新のたびに、新しい通知書が必要になるので、ひな形の差し替えは急ぎです。税務・労務・法務の全体像でも書きましたが、書面まわりは、専門家を味方につける価値がいちばん出る領域です。
【続報 2026/9/27】指針の中身が見えてきた——賞与・退職金は「何のために払うか」で判断。イオンはパートの役職者が約360人に
9月27日の日本経済新聞(総合4面)が、10月1日に施行された同一労働同一賃金ガイドライン(指針)の改定について、施行前に中身を整理していました(改定は2026年4月28日に公布。厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ)。上の一覧に書いた項目について、日経によると、考え方は次のように示されました。
- 賞与・退職金:判断の基準が厳しくなる。「労働の対価の後払い」として払う場合は、非正規にも職務の内容に応じた相応の額が必要
- 家族手当・休職中の給与保障:継続して働くことが見込まれる人には、正社員と同じように
- 休暇制度:待遇差を点検する対象に入る
共通しているのは、手当の名前ではなく、何のために払っているのかで判断する、という考え方です。「社員だから賞与がある」ではなく、「この賞与は何への対価か」を言葉にできるかどうかが問われます。
背景の数字も並べておきます。非正規で働く人は、2025年平均で2,128万人。役員を除く雇用者の36.5%です(総務省統計局・労働力調査)。日経によると、東京都の2025年度の調査では、パートの7割弱が、正社員との間に「不合理な差がある」と答えています。
同じ記事は、先に動いた会社としてイオンリテールを挙げています。2023年に人事制度を改め、正社員と同じ役割を担うパートには、基本給・役割手当・退職金を、働く時間に比例して払うようにしました。日経によると、その後、リーダーやマネジャーを務めるパートが約360人生まれ、毎年400人が昇格試験を受けているそうです。

待遇を良くしたら、働く人のレベルも意欲も上がった。良い例ですよね。
コンビニに置き換えると、守りと攻めの2つがあります。守りのほうは、同一労働同一賃金が「同じ雇い主のもとの正社員」と比べる話だということです。うちは基本的に待遇に差を設けていないので、第6章に書いたとおり、ここは心配していません。社員の店長とベテランのパートが同じ仕事をしていて、賞与や手当に差がある店は、10月からは、その差の理由を指針の考え方で説明できるかを点検しておくのが安全です。
攻めのほうは、イオンの例がそのまま答えになっています。処遇を正すと、上を目指す人が増える。私は、店長はアルバイトやパートからの昇格が望ましいと考えていて、実際にそうしています(最低賃金1,177円の記事)。役割に応じて処遇が上がる道が見えていることは、時給の高さで勝てない店にとって、採用と定着の武器になります(「育てて、送り出す」)。
10月に動く人の制度は、ほかの記事にもまとめています。社会保険は「週20時間の壁」と「コンビニ社会保険完全ガイド」、最低賃金は「時給+56円の請求書は、年に約90万円」、カスハラ対策は「10月1日、カスハラ対策が義務になる」です。
【続報 2026/9/28】施行まで3日——通知書は「申出先」まで書く。手当・休暇は「しなければならない」へ
9月28日の日本経済新聞(法税務面)が、10月1日の施行を前に、改正の全体を3本柱で整理しています。厚生労働省のリーフレットと改正の概要で確かめると、10月1日に施行されたのは次の3つです。
| 施行されたもの | 中身 | 店で確かめること |
|---|---|---|
| 施行規則(通知書の明示事項) | 雇い入れ時の通知書に、待遇の違い(内容・理由)について説明を求めることができる旨を追加。違反した者は10万円以下の過料 | 10月1日以降に渡す通知書に、この一文と申出先が入っているか |
| 同一労働同一賃金ガイドライン | 退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・褒賞を新たに記載。家族手当(継続勤務が見込まれる人)や夏季冬季休暇などは、正社員と同一に「支給(付与)しなければならない」 | 手当と休暇を、社員とパートで並べて見る |
| 雇用管理指針 | 待遇差の説明の方法、正社員への転換について面談などで本人の意向を確かめて配慮すること、転換制度や実績の公表(望ましい)など | 面談の場で、働き方の希望も聞いておく |
1つ目の通知書は、厚生労働省のモデル労働条件通知書も10月の改正に合わせて改められました。「次の窓口に対して、正社員との待遇の違い(内容・理由)について説明を求めることができる」という趣旨の一文と、その下に、部署名・担当者の職氏名・連絡先を書く欄が入っています。記入要領によると、申出先はスタッフが特定できるように書けば足り、連絡先は電話番号やメールアドレスなど。これまでの相談窓口と同じなら「同上」で構いません。小さな店なら、オーナーか店長の職氏名と、店の電話番号を書く形になるでしょう。本部のひな形を使っている店は、10月対応版にこの欄があるかを確かめておきましょう。
2つ目のガイドラインは、書きぶりが強くなりました。リーフレットは、継続勤務が見込まれるパートには正社員と同一の家族手当を「支給しなければなりません」、正社員と同一の夏季冬季休暇を「付与しなければなりません」、正社員に病気休職中の給与保障があるなら、継続勤務が見込まれるパートにも同一の保障を「行わなければなりません」と書いています。賞与と退職手当は、労務の対価の後払いといった目的がパートにも当てはまるのに、働き方の違いに応じた釣り合いのとれた内容を払わなければ、不合理と認められる可能性がある、という書き方です。新しく加わった6つの待遇のうち5つは、最高裁判決を踏まえたものです(厚生労働省のガイドラインに関するQ&A。日経は、ハマキョウレックス、長澤運輸、日本郵便などの判決を挙げています)。
ただし、「同一」は、短い時間で働くパートに、正社員とまったく同じ額や日数をそのまま出せ、という意味ではありません。待遇の性質と目的に照らして各事業主が決め、労使で話し合っていくことが望まれる、とQ&Aは答えています。もう1つ大事なのは、差を埋めるときに、正社員の条件を下げて揃えるのではなく、パートの条件を上げることが求められる、と明確にされたことです。見直しは、人件費が増える方向に働きます。揃える前に、人件費がどれだけ増えるかを試算しておくと、決めやすくなります(考え方は「人件費とは?」、比率の計算は「人件費率の目安と計算方法」)。
指導の数字も見ておきます。2025年度に労働局がパート・有期雇用労働法で行った是正指導は19,265件(7,966社)。いちばん多かったのは、労働条件の文書交付(通知書)に関するもので4,596件、不合理な待遇差の禁止に関するものは1,875件でした(厚生労働省法施行状況)。通知書は、10月の改正の前から、指導がいちばん多い項目です。日経によると、ある全国展開の小売業では、規定を調べ直したところ、正社員とパートで違う規定が100近く見つかり、うち約40件は早急に直す必要があったそうです。退職金も、正社員に退職金がある企業のうち、有期雇用のパートにも払っているのは10.2%にとどまります(厚生労働省2021年の調査)。
コンビニの店に置き換えると、施行までの3日でやることは3つです。1つ目は、10月1日以降に渡す通知書に、説明を求められる旨と申出先が入っているかを確かめること。2つ目は、慶弔休暇、夏季冬季休暇、病気で休むときの扱い、手当を、社員とパートで並べてみること。3つ目は、違いがあるなら、その理由を資料にしておくことです(第6章)。差を設けていない店でも、並べてみて初めて気づく違いがあるかもしれません。並べて確かめたこと自体が、第6章に書いた「差がないことも説明できる」状態の準備になります。
第3章:面談の型——店長が、1人5〜10分、事務所で
うちの面談の決まりごと
うちの面談は、各店舗の店長が行います。時間は1人5〜10分。場所は店舗の事務所。そして、逃げ道を用意してあります——店長と折り合いがつかないこと、店長には相談できないこと、直接オーナーに伝えたいことは、オーナーまで。店長面談とオーナー面談の二段構えです。
5〜10分は短く見えますが、短いから全員とできる。全員とできるから、集計に意味が出る。長い面談を数人とやるより、短い面談を全員とやる——10月の面談は、こちらです。
5項目と時間配分
| 順番 | 項目 | 目安 | 伝えること・聞くこと |
|---|---|---|---|
| ① | 新しい時給 | 1分 | 10月からの時給。上乗せのある人は、上乗せ幅ごとスライドすることも |
| ② | 扶養と働き方の希望 | 4〜5分 | 今年の累計と、年末までに働ける残り時間を一緒に計算する |
| ③ | 待遇の疑問は聞いていい | 1分 | 新しい通知書を手渡し、待遇のことで疑問があれば、いつでも説明すると伝える。聞いても不利益はない |
| ④ | 困ったお客様への対応 | 1分 | 店として線を引くこと、1人で抱えないこと |
| ⑤ | 本人の話 | 残り全部 | 要望、困りごと。店長に言いにくければオーナーへ |
順番には意味があります。①は良いニュースなので最初に。②がこの面談の本体なので、時間の半分を使う。③④は「店はあなたを守る側にいる」というメッセージ。⑤で終わるのは、面談の最後を本人の言葉にするためです。

面談は、各店舗の店長が行います。折り合いがつかないことや、店長に相談できないこと、直接オーナーに伝えたいことは、オーナーまで。時間は5〜10分程度で、場所は店舗の事務所です。短いですけど、全員とやることに意味があると思っています。
第4章:いちばん大事な項目——扶養の計算を、一緒にやる
10月は、年末まで残り3ヶ月
5項目のうち、時間の半分を使うのが②です。10月ということもあり、扶養の計算も入れたうえでの話し合いが要だと思っています。
理由は単純で、10月は年末まで残り3ヶ月だからです。1月から9月までの累計が出ている。そこから「年末までに、あとどれだけ働けるか」を計算できる、最後の余裕のあるタイミングです。12月になってから「もう上限です」と分かっても、シフトは埋まりません。四半期ごとに声をかけて調整する運用を続けてきたので、うちは年末に困ったことがありませんが、その運用の要が、この10月の面談です。
時給が上がると、同じ上限に早く着く
そして今年は、見落としやすい算数があります。時給が上がると、扶養の範囲内で働く人は、同じ上限額に早く着いてしまう。つまり、働ける時間が減ります。
式はこれだけです。本人が意識している年間の上限額 ÷ 時給 = 1年に働ける時間。
モデルで計算します(前提を置いた試算です。上限額は人によって違います)。上限を年130万円、時給を東京都の最低賃金で置くと——
| 時給 | 1年に働ける時間 | 週あたり | |
|---|---|---|---|
| 改定前 | 1,226円 | 約1,060時間 | 約20.4時間 |
| 改定後 | 1,280円 | 約1,016時間 | 約19.5時間 |
| 差 | +54円 | ▲約45時間 | ▲約0.9時間 |
1人あたり、年に約45時間。4.5時間のシフトに直すと、1人につき年10回分のシフトが消える計算です。しかも改定後の「週19.5時間」は、社会保険の「週20時間の壁」とほぼ同じ位置に来ている。金額の壁と時間の壁が、時給の上昇で重なってきたのです。
大事な注意がひとつ。本人が意識している上限は、人によって違います。配偶者の勤務先の手当の基準かもしれないし、健康保険の扶養の基準かもしれないし、「なんとなくこのくらい」かもしれない。だから、計算は店が決めつけてやるのではなく、面談で本人に上限を聞いて、一緒に割り算する。それが、②に4〜5分を使う理由です。

働き方の希望を確認する、という項目は、10月ということもあって、扶養の計算も入れたうえでの話し合いが要かなと思っています。年末まであと3ヶ月なので、ここで一緒に計算しておけば、12月に慌てなくて済むんですよね。
第5章:店側の論点——人の補充は、必要か
面談の集計が、採用計画になる
第4章の算数を、店の側から見ます。1人あたり年45時間。扶養の範囲内で働くスタッフが10人いれば、年に約450時間——4.5時間シフトで約100回分が、時給の改定だけで消えます(モデル試算)。誰も辞めていないのに、人時が減る。
うちは、短時間で、扶養の範囲内で働きたい人を集めてきました。1シフト4〜5時間で交代する設計です。だから制度が変わっても、働き方そのものに大きな問題は感じていません。ただ、稼ぐのに必要な時間数が減る以上、人の補充が必要なのかどうか——ここが論点になります。短時間×扶養内という設計は、壁の変更には強い。でも、時給が上がるたびに1人あたりの時間が縮むという弱点も持っている。
補充を決める前に、やること
だから、全員の面談が終わったら、集計します。
- 全員分の「10〜12月に働ける残り時間」を足す
- 10〜12月のシフトに必要な人時と比べる(年末商戦の山を含めて)
- 足りない分が、補充の必要量
ただし、足りないと分かっても、すぐ募集をかける前に1段あります。セルフレジの記事で書いた順番——消せる仕事を先に探す。足りない人時のうち、仕事の見直しで埋められる分を引いてから、残りを採用で埋める。時給を上げても人が来にくい市場で、採用は最後の手段であり、いちばん時間のかかる手段です。だからこそ、9月中に数字を持っておく意味があります。

うちの場合、短時間労働で、扶養の範囲内で働きたい人を集めているので、特に大きな問題は感じていないんです。ただ、稼ぐのに必要な時間数が減少するので、人の補充が必要なのかが論点になってきます。面談で全員の残り時間が分かれば、それがそのまま秋の採用の判断材料になりますね。
第6章:待遇差と本人の意思——「差がない」も、説明できるように
うちは、心配していない。それでも伝える
第2章の新しい改正について、うちの状況を書きます。基本的には、待遇に差を設けていないので、この点は心配していません。要望があれば確認する方向で、必要ならオーナー面談で聞きます。
それでも、面談の③で「待遇のことで疑問があれば、いつでも聞いてください」と伝えるのには理由があります。「差がない」ことも、聞かれたら説明できる状態にしておくためです。差がないと思っているのは、店側だけかもしれない。スタッフから見て「あの人だけ」に見えているものがあるなら、それは説明の機会です。聞いていいと伝えること自体が、信頼の投資になります。
違いがある店は、理由を言葉にしておく
社員とパートで、賞与や手当に違いがある店は、準備が要ります。違いがあること自体が問題なのではなく、理由を説明できないことが問題です。一般に、説明の軸になるのは、職務の内容、責任の範囲、配置や役割が変わる範囲の違いです。「社員だから」は理由になりません。店長が資料を見せながら口頭で説明できる言葉に、9月中にしておく。10月からの指針では、説明の方法も示されています。「資料を活用して口頭で説明する」か、「説明すべき事項を全て書いた分かりやすい資料を渡す」かのどちらか。口頭だけで済ませず、待遇の決め方が分かる資料を手元に用意しておく、ということです。説明しようとして言葉に詰まる違いがあったら、それは見直しの候補です。
最後は、本人の意思
面談の最後の項目を「本人の話」にしているのは、この面談の土台が、本人の意思の尊重だからです。扶養の範囲内で働きたい人に、もっと働いてほしいと頼む面談ではありません。働ける時間が減ることを一緒に確認して、本人が選ぶ。人は変えられない。変えられるのは関係だけと書きましたが、制度が4つ動く10月も、やることは同じです。その人の10月を、その人と一緒に確認する。1人10分で、それはできます。

基本的には待遇に差がないので、この辺は心配していないんです。要望などあれば確認する方向で、必要ならオーナー面談で。ひな形は本部のものを使っていて、無期契約で、社労士はついていません。いちばん大事にしているのは、本人の意思の尊重ですね。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年10月の同一労働同一賃金の改正で、何が変わりますか?
厚生労働省の公表情報によると、パート・有期雇用の労働者への労働条件の明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が追加されます。明示は雇い入れたときで、労働契約の更新時も含むとされています。この明示に違反した者は10万円以下の過料に処されます(厚生労働省のリーフレット)。あわせて同一労働同一賃金ガイドラインが改正され、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・福利厚生などの考え方が整理されました。施行は2026年10月1日です。9月27日の日本経済新聞によると、賞与や退職金を労働の対価の後払いとして払う場合は非正規にも職務内容に応じた相応の額を、継続勤務が見込まれる人には家族手当や休職中の給与保障も正社員と同様に、という考え方が示されました。手当の名前ではなく、何のために払っているかで判断されます。10月1日に施行されたのは、この明示事項の追加(施行規則)、同一労働同一賃金ガイドライン、雇用管理指針の3つです。ガイドラインには、継続勤務が見込まれるパートへの家族手当や、夏季冬季休暇などを、正社員と同一に「支給(付与)しなければならない」とする記載も加わりました(厚生労働省のリーフレット)。
Q2. すでに働いているパートにも、書面を出し直す必要がありますか?
私が確認した範囲では、明示のタイミングは「雇い入れたとき」と「契約の更新時」です。有期契約で更新のある店は、更新のたびに新しい内容の通知書が必要になります。無期契約の既存スタッフには更新時が来ないため、書面で明示する機会は新規採用時に限られると読めます。私が確認した範囲では、既存スタッフへの出し直しを義務とする記載は見当たりません。ただし厚生労働省の指針では、説明の求めがない場合でも、労働契約の更新時などに、説明を求めることができることを周知するといった対応が「望ましい」とされています。個別の判断は本部・労働局の総合労働相談コーナー・社会保険労務士にご確認ください。なお、求められたら待遇差を説明する義務は以前から全員に対してあります。私の店では、後々のトラブル防止も兼ねて、既存スタッフにも新しい通知書を出し直すことにしました。
Q3. 待遇差の説明を求められたら、どう答えればいいですか?
違いがあること自体ではなく、理由を説明できないことが問題になります。一般に説明の軸になるのは、職務の内容、責任の範囲、配置や役割が変わる範囲の違いで、「社員だから」は理由になりません。説明の方法は、資料を活用して口頭で説明するか、説明すべき事項を全て記載した分かりやすい資料を交付するかのいずれかとされています(2026年10月からの指針)。店長が資料を見せながら説明できる言葉に事前にしておき、説明に詰まる違いは見直しの候補と考えます。説明を求めた人への不利益な扱いは法律で禁止されています。個別の判断は専門家にご確認ください。
Q4. 10月前の面談では、何を話せばいいですか?
私の店では5項目です。①新しい時給(1分)②扶養と働き方の希望(4〜5分・今年の累計と年末までの残り時間を一緒に計算)③待遇の疑問は聞いていいと伝える(1分)④困ったお客様への店の対応方針(1分)⑤本人の話(残り全部)。良いニュースから始め、本体の②に時間の半分を使い、最後を本人の言葉で終える順番にしています。
Q5. 面談は誰が、どのくらいの時間でやるべきですか?
私の店では各店舗の店長が、1人5〜10分、店舗の事務所で行います。店長と折り合いがつかないこと、店長に相談できないこと、直接オーナーに伝えたいことはオーナーまで、という二段構えです。短い面談を全員とやることで、集計に意味が出ます。長い面談を数人とやるより、10月前は短い面談を全員とやるほうが実務的です。
Q6. なぜ時給が上がると、働ける時間が減るのですか?
扶養の範囲内など年間の上限額を意識して働いている人は、「上限額÷時給」で働ける時間が決まるからです。モデル試算では、上限を年130万円、時給を東京都の最低賃金(1,226円→1,280円)で置くと、1年に働ける時間は約1,060時間から約1,016時間へ、約45時間減ります。4.5時間シフトで年10回分です。上限額は人によって違うため、面談で本人に確認して一緒に計算します。
Q7. 扶養の上限額は、いくらで計算すればいいですか?
人によって違うので、店が決めつけないことが大切です。配偶者の勤務先の手当の基準、健康保険の扶養の基準、社会保険の週20時間の基準など、本人が意識している上限はさまざまです。面談では本人に「年間いくらまで、または週何時間までで考えているか」を聞き、その数字で割り算します。判定方法の詳細は、配偶者の勤務先や加入している健康保険にご確認ください。
Q8. 面談の結果は、店の運営にどう使えますか?
全員分の「10〜12月に働ける残り時間」を足し、同じ期間のシフトに必要な人時と比べます。足りない分が補充の必要量です。モデルでは扶養内スタッフ10人で年約450時間(4.5時間シフト約100回分)が時給改定だけで減る計算になります。ただし募集の前に、仕事の見直しで埋められる分を先に引くのが順番です。採用は時間がかかるため、9月中に数字を持っておく意味があります。
Q9. 社労士がいない店は、どうすればいいですか?
私の店も社労士はついておらず、通知書は本部のひな形を使っています。この場合は①本部のひな形が10月対応版になっているかを本部に確認する②判断に迷う点は労働局の総合労働相談コーナーに相談する③書面の整備や待遇差の整理に不安があれば、スポットで社会保険労務士に依頼する——の順が現実的です。書面まわりは自己判断で済ませないほうが安全です。
Q10. この記事の情報の出典は?
同一労働同一賃金の改正内容(明示事項・過料・説明の方法・周知)は2026年9月19日時点の厚生労働省の公表情報(Webマガジン・リーフレット・改正の概要)、説明を求めた労働者の割合・待遇差の罰則と裁判リスクの指摘、指針改定の考え方とイオンリテールの事例(2026年9月27日)は日本経済新聞の報道、非正規の人数は総務省の労働力調査(2025年平均)、10月1日に施行された3つの改正・モデル労働条件通知書の記載例・ガイドラインの書きぶりと判例の反映は2026年9月28日に確認した厚生労働省の資料(リーフレット・改正の概要・Q&A)、是正指導の件数は厚生労働省の法施行状況(2025年度)、退職金の実施割合は厚生労働省の2021年調査、小売業の規定見直しの事例(2026年9月28日)は日本経済新聞の報道に基づきます。最低賃金・社会保険・カスハラ義務化は当ブログの各記事で整理した内容です。面談の運用・契約形態・待遇の状況は私の店の実例、時間の試算は前提を明示したモデルです。個別の適用判断は本部・労働局・社会保険労務士等にご確認ください。
まとめ:その人の10月を、その人と一緒に確認する
10月は人に関わる制度が4つ動きます——最低賃金1,177円・社会保険の賃金要件撤廃・カスハラ義務化・同一労働同一賃金の改正。新しい改正では、パート・有期雇用の人への明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が加わり、明示は雇い入れたときと契約の更新時で、違反は10万円以下の過料(厚労省の公表情報で確認できた範囲)。うちは本部のひな形・無期契約・社労士なしなので、①新規採用分は本部のひな形の10月対応を確認②既存スタッフにも、トラブル防止を兼ねて新しい通知書を出し直し、面談で手渡す(指針でも周知は「望ましい」)③不明点は本部と労働局へ、の3つ。説明を求めた人への不利益な扱いは禁止で、違いがある店は「職務の内容・責任の範囲・配置の変わる範囲」で理由を言葉にしておく(説明は資料を使って口頭で、または資料を渡して)。制度ごとに説明せず、店長が1人5〜10分・事務所で・5項目(時給/扶養と働き方/待遇は聞いていい/カスハラ方針/本人の話)の面談にまとめる。本体は②——10月は年末まで残り3ヶ月で、時給が上がると同じ上限に早く着く(モデル:上限130万円・東京の最賃で1人年約45時間減=4.5時間シフト10回分)。上限は人によって違うので本人に聞いて一緒に割り算する。集計すれば人の補充が必要かどうかが数字で分かる(10人で年約450時間)。募集の前に、消せる仕事を先に探す。土台は本人の意思の尊重——その人の10月を、その人と一緒に確認する。
この記事の要点
- 10月は人に関わる制度が4つ動く=最低賃金・社保の賃金要件撤廃・カスハラ義務化・同一労働同一賃金の改正
- 新改正=パート・有期雇用への明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を追加(厚労省)。明示の違反は10万円以下の過料
- 10月1日施行は3つ=施行規則(通知書)・ガイドライン・雇用管理指針。通知書は申出先(部署名・担当者・連絡先)まで書く。家族手当・夏季冬季休暇などは「支給(付与)しなければならない」に。差は正社員を下げずパートを上げて埋める
- 明示のタイミング=雇い入れたとき+契約の更新時。有期で更新のある店はひな形の差し替えが急ぎ
- 無期契約の店=書面の機会は新規採用時。うちは既存スタッフにもトラブル防止を兼ねて通知書を出し直し、面談で手渡す(説明義務は以前から全員にある。指針でも周知は「望ましい」)
- うちの条件(本部ひな形・無期・社労士なし)=本部に10月対応を確認、不明点は労働局へ。自己判断で済ませない
- 面談の型=各店舗の店長が1人5〜10分・事務所で。店長に言えないことはオーナーへの二段構え
- 5項目=①時給②扶養と働き方③待遇は聞いていい④カスハラ方針⑤本人の話。②に時間の半分を使う
- 時給が上がると働ける時間が減る=上限額÷時給。モデルで1人年約45時間減(4.5時間シフト10回分)
- 面談の集計が採用計画になる=10人で年約450時間。募集の前に消せる仕事を先に探す
- 待遇差は「差がない」も説明できるように(説明は資料を使って)。10月の指針は賞与・退職金・家族手当を「何のために払うか」で判断。イオンは処遇を正してパートの役職者が約360人に=守りと攻めの両方。土台は本人の意思の尊重
次のアクション
- [ ] 本部に、労働条件通知書のひな形が10月対応版(説明を求められる旨と、申出先の欄の記載入り)になっているか確認する。厚生労働省のモデル労働条件通知書と照らし合わせると早い
- [ ] 自店の契約が有期か無期かを確認し、有期なら次の更新時期と通知書の差し替えを予定に入れる(無期でも、指針で周知が「望ましい」とされているため、既存スタッフへの出し直しを検討する)
- [ ] スタッフ全員の1〜9月の累計(金額と時間)を、面談の前に出しておく
- [ ] 店長と面談の5項目・順番・時間配分を共有し、9月中に全員と実施する日程を組む
- [ ] 面談では本人が意識している上限を聞き、年末までに働ける残り時間を一緒に計算する
- [ ] 全員分の残り時間を集計し、10〜12月の必要人時との差から補充の要否を判断する(募集の前に仕事の見直し)
- [ ] 社員とパートで待遇に違いがある場合は、理由を店長が資料を見せながら説明できる言葉にしておき、説明に使う資料も用意する
- [ ] 賞与・手当・休暇(慶弔・夏季冬季・病気のとき)を社員とパートで並べ、違いがあれば「何のために払っているか」を1行で書き出し、指針の考え方で説明できるか点検する
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参考|公式情報
- 厚生労働省 Webマガジン|2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります:改正の3つのポイント(明示事項の追加・ガイドライン改正・雇用管理上の措置)の公式解説
- 厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ:令和8年改正のリーフレット・改正の概要・Q&Aと、改正に対応したモデル労働条件通知書
- 厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧:都道府県別の最低賃金額と発効日
- 日本年金機構|短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大:週20時間などの加入要件と、賃金要件(月額8.8万円)の撤廃予定
- 厚生労働省|総合労働相談コーナーのご案内:通知書や待遇差の判断に迷ったときの相談窓口(予約不要・無料)
- 厚生労働省|都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における法施行状況:パート・有期雇用労働法の是正指導の件数と内訳(2025年度)
- 厚生労働省|令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況:手当・退職金・休暇などを正社員とパートに実施している企業の割合
制度が4つ動く、と書くと大ごとに聞こえます。でも、事務所の椅子に座ったスタッフが知りたいのは、制度の名前ではありません。自分の時給がいくらになって、年末まであとどれだけ働けて、困ったときに店が味方でいてくれるのか。それだけです。
だから、面談は10分でいい。新しい時給を伝えて、電卓を一緒にたたいて、「疑問があれば、いつでも聞いてください」と言って、あとは本人の話を聞く。
全員分が終わったとき、店長の手元には、この秋の人時の数字が残ります。それは、制度の説明をした副産物ではなく、1人ひとりと話したことの、正直な集計です。
10月1日の朝を、全員が「自分の10月」を知っている状態で迎える。今月の仕事は、それだと思っています。

