10月、「106万円の壁」が「週20時間の壁」に変わる|シフトが揺れない店の設計——1シフト4〜5時間という答え【現役オーナー】
2026年10月、パートタイマーの社会保険の判定基準が変わります。月収8万8,000円(年収換算で約106万円)以上という賃金要件が、撤廃されるのです。
このニュース、これから「106万円の壁が撤廃される」という見出しで大量に流れると思います。でも、シフトを組んでいる立場から言わせてもらうと、この表現は少し違う。壁は、消えるのではありません。移るだけです。
残るのは、週20時間という時間の壁。しかもこれは、制度が意地悪をしたわけではなく——最低賃金が上がりきった結果、賃金要件のほうが先に意味を失ったという順序です。東京都の最低賃金1,226円なら、週19時間に抑えれば社保適用を回避したまま年収121万円余りを得られる計算になります。8.8万円という基準は、もはや壁として機能していないのです。
そしてここからが、実務の話。週19時間と週20時間、その差はたった1時間。なのにその1時間を境に、本人の手取りと店の社会保険負担が、両方いっぺんに段差になって動きます。10月以降、この制約は年末だけでなく通年でかかってきます。
ただ——正直に書くと、私の店は、この改正でそれほど揺れないと思っています。理由は制度に詳しいからではありません。1シフト4〜5時間で交代するスタッフを、2〜3年前から揃えてきたからです。シフトの設計そのものが、結果としてリスク管理になっていた。今回はその話を書きます。
- 10月に何が変わるのか——賃金要件の撤廃と、残る2つ
- 壁は消えない、移るだけ——最賃が壁を追い越した
- 週19時間と週20時間、1時間の段差
- なぜうちの店は揺れないのか——1シフト4〜5時間という設計
- 運用の実際——採用時の確認と、四半期ごとの調整
- その先の問い——調整しても、生活は楽にならない
※制度内容は2026年8月9日時点の公表情報に基づく概要です。個別の適用判断・手続きは、必ず年金事務所や社会保険労務士等の専門家、および本部からの案内でご確認ください。社会保険制度の全体像はコンビニ社会保険完全ガイドにまとめてあります。
第1章:10月に何が変わるのか——賃金要件の撤廃と、残る2つ
3つの要件のうち、1つが消える
まず制度の骨格を、シフトに必要な範囲だけ整理します。現在、パートタイマーが社会保険(厚生年金・健康保険)の適用対象になるのは、次の3つをすべて満たす場合です。
| 要件 | 内容 | 今後 |
|---|---|---|
| ①企業規模 | 従業員51人以上 | 段階的に引き下げ、2035年10月までに撤廃予定 |
| ②労働時間 | 週20時間以上 | これが本丸として残る |
| ③賃金 | 月8万8,000円以上(年収換算約106万円) | 2026年10月に撤廃 |
2025年6月に成立した年金制度改正法によるもので、厚生労働省の試算では、この適用拡大で新たに約200万人が社会保険の対象になるとされています。
「106万円の壁の撤廃」という言葉に注意
ここで、報道の言葉づかいに一言。「106万円の壁の撤廃」と聞くと、所得税の課税最低限を引き上げる話——つまり手取りが増える政策のように聞こえます。でも、これは違います。
今回の改正は、社会保険の適用対象を広げる改革の一断面です。就業調整対策でも、手取り増の政策でもない。むしろ対象が広がるということは、これまで対象外だった人が保険料を負担する側になるということでもあります(もちろん将来の年金が増え、傷病手当金などの給付も受けられるようになる、というプラス面と表裏一体です)。
言葉のイメージと中身がずれているので、スタッフに説明するときは、ここを取り違えないようにしたいところです。
第2章:壁は消えない、移るだけ——最賃が壁を追い越した
なぜ賃金要件が置かれていたのか
そもそも、なぜ月8.8万円という賃金の下限があったのでしょうか。制度が始まった2016年当時の理屈は、実は筋が通っています。
厚生年金の保険料率は18.3%の労使折半です。仮に月収7万円の人に適用すると、労使合わせても保険料は月1万3,000円を下回る。ところが2026年度の国民年金保険料は月1万7,920円。つまり、国民年金の人より安い負担で、基礎年金と報酬比例年金の両方をもらえてしまう——この不均衡を避けるために、下限として8.8万円が置かれたわけです。
企業規模要件(①)も同じで、保険料の半額を負担する中小・零細への配慮でした。つまり①と③は、制度を作ったときの副作用対策であって、根幹は②の週20時間なのです。
最低賃金の上昇が、壁を追い越した
ところが、この10年で状況が変わりました。物価高と人手不足で、最低賃金が上がり続けたのです。
結果どうなったか。首都圏・関西・愛知ではすでに、週20時間働けば最低賃金でも月8.8万円を超えます。つまりこれらの地域では、賃金要件はもう機能していない。社保を避けるラインとして意味があるのは、時間のほうだけになっていたのです。
具体的に計算してみます。
| 前提 | 計算 | 年収 |
|---|---|---|
| 東京都最賃1,226円 × 週19時間 × 52週 | 社保適用外 | 約121万円 |
| 東京都最賃1,226円 × 週20時間 × 52週 | 社保適用 | 約127万円 |
| 2026年度目安1,176円(全国加重平均)× 週20時間 × 52週 | 社保適用 | 約122万円 |
そして、2026年度の最低賃金改定(中央最低賃金審議会の目安は全国加重平均1,176円、8〜9月に各都道府県が決定)によって、この状態は全国に広がる見通しです(最低賃金の記事もあわせてどうぞ)。
壁は撤廃されるのではなく、「金額の壁」から「時間の壁」へ一本化される——これが、この改正の正確な理解だと思います。
第3章:週19時間と週20時間、1時間の段差
たった1時間で、両側が動く
さて、実務です。10月以降、スタッフが見る数字は時間だけになります。これまでは「時給×時間が106万円を超えないか」と両方をにらんでいたのが、週20時間か、19時間かの一点に集約される。
問題は、その1時間の重みです。たった1時間の差で、本人の手取りと、店の社会保険負担が、同時に段差になって動くのです。
- 本人側:社会保険料の負担が発生し、手取りが目に見えて減る局面がある(一方で将来の年金は増え、傷病手当金なども対象に)
- 店側:事業主負担が発生する。厚生年金・健康保険などを合わせると、おおむね賃金の14〜15%程度が事業主の負担になります(料率は年度・都道府県で異なります)。月10万円の賃金なら、月1.4〜1.5万円、年17〜18万円程度の追加負担というモデル計算になります
つまり、週19時間と週20時間の間には、本人にとっても店にとっても、越えると景色が変わる線が引かれている。これが年末の一時期ではなく、10月から通年でかかってくるのが今回の変化です。
「時給を上げても時間が増えない」局面
ここに、経営として厄介な副作用があります。時給を上げても、働いてもらえる時間が増えない。
これまでは、時給を上げれば「じゃあもう少し入ります」という反応が期待できました。でも壁が時間で決まるようになると、時給が上がっても上限の時間は変わらない。むしろ時給が上がるほど、同じ時間で壁の年収に近づくだけです。
だから10月以降、これは時給の問題ではなく、人時をどう配分するかの問題に変わります(人件費の考え方は人件費とは?の記事に書いたとおりです)。ここが、今回の改正のいちばん経営に効くポイントだと思っています。
第4章:なぜうちの店は揺れないのか——1シフト4〜5時間という設計
午前中の主婦層は、ほぼ全員が週20時間未満
自店の状況を書きます。午前中の勤務で働いている主婦層は、この週20時間未満にほぼ全員が該当します。つまり、今回の改正の影響を受ける層は、確かに厚くいる。
それでも、私が「今まで通りの感覚でいられる」と思っている理由があります。
1シフト4〜5時間で交代する体制を、2〜3年かけて
朝と昼のように長時間働くスタッフが少なく、1シフト4〜5時間で交代するスタッフを、2〜3年前から揃えてきました。これが答えです。
なぜこれが効くのか。考えてみると、構造がはっきりしています。
| 長時間シフト依存の店 | 1シフト4〜5時間の交代制 | |
|---|---|---|
| 1人あたりの週の時間 | 長い(壁に当たりやすい) | 短い(壁に余裕がある) |
| 壁に当たったとき | その人が抜けると穴が大きい | 減らす幅が小さく、他に振りやすい |
| 調整の自由度 | 低い(動かせる人が少ない) | 高い(動かせる人が多い) |
| 制度変更への耐性 | 揺れる | 揺れにくい |
長時間シフトに頼っている店ほど、壁の段差は大きく響きます。週25時間入っている人が「20時間未満にしたい」と言えば、いきなり週5時間以上の穴が空く。しかもその人は戦力の中核なので、代わりがすぐには効かない。
一方、1シフト4〜5時間の人が10人いる体制なら、誰かが少し減らしても、その分を他の人に少しずつ振れる。人時が細かく分割されているぶん、可搬性が高いのです。
制度対応のつもりで作った体制ではなかった
正直に書くと、私はこの体制を「2026年の制度改正に備えて」作ったわけではありません。シフトの穴を防ぎ、一人に負荷が集中しないようにするため——シフト作成の基本や主婦層に頼りすぎるリスクの記事で書いてきた、ごく普通の設計思想です。
でも結果として、それが制度変更への耐性になった。良いシフト設計は、たいてい未知のリスクにも強い——今回、それを実感しています。逆に言えば、いま長時間シフト依存の店が10月に慌てるとしたら、それは制度のせいというより、設計の余白がなかったということなのだと思います。

午前中の勤務で働いている主婦層は、この週20時間未満にほぼ全員該当します。ただ、うちは朝と昼のように長時間働くスタッフが少なくて、1シフト4〜5時間で交代するスタッフを2〜3年前から揃えてきているんです。そのため大きな増減もなくて、こういう事態でも今まで通りの感覚でいられています。制度に備えて作った体制ではないんですけど、結果的にそれが効いている感じですね。
第5章:運用の実際——採用時の確認と、四半期ごとの調整
①採用の段階で、希望を確認する
具体的な運用を3つ書きます。まずいちばん大事なのが、採用の段階です。
採用のときに、「この壁に当たらない程度に働きたいのか」を確認します。ここを曖昧にしたまま採用すると、後から「実はこれ以上は入れなくて」となって、シフトが崩れます。逆に、最初に希望を聞いておけば、その人をどのゾーンの戦力として数えるかが決まる。壁を意識する人なのか、しない人なのか——これは能力の話ではなく、設計上の属性として把握しておくべき情報です(採用時の確認事項は採用・面接の記事にもまとめています)。
②四半期・半期ごとに、金額を見て声をかける
次に、走り出してからの運用です。四半期や半期ごとに、金額の高い人などに声をかけて調整するような形を取っています。放っておくと、忙しい月が重なった人だけが壁に近づいてしまうからです。
そして大事なのが、その分、少なかった人に「他のところで出られないか」を確認すること。減らすだけでは店の人時が足りなくなるので、減らす人と増やせる人をセットで動かす。これが回せるのも、1シフト4〜5時間で人数が揃っているからです。
この運用のおかげで、年末に全員が休みになって困った、ということはありません。年末に「もう働けません」が集中するのは、11月・12月になって初めて年収を数えるからです。四半期ごとに見ていれば、山は前もってならせます。
③日頃の会話で、増減の相談を受けられる状態にしておく
3つめは、仕組みというより関係の話です。日頃のコミュニケーションの中で、労働時間の増減の相談はされます。「来月ちょっと減らしたい」「今なら入れます」——こういう声が事前に届く関係があるかどうかで、シフトの安定はまるで変わります。
これは「一緒に考える」育成法やお客様は変えられるのにスタッフは変えられない?で書いてきた、日々の関わりの話とつながっています。制度対応の最後の受け皿は、結局、普段の会話なのです。
補足:掛け持ちの人は、壁の制約を受けにくい
もうひとつ、実務的に知っておくと役立つ点を。掛け持ちの方は、そもそも本業のほうで社会保険を払っているため、時間的な拘束はほとんどありません。壁を意識して時間を抑える動機がないからです。
10月以降、壁を意識する層が時間で頭打ちになるぶん、この掛け持ち層の価値は相対的に上がります。副業・兼業が広がっている今、採用の視野に入れておく意味は大きいと思います。
※ただし、複数の勤務先でそれぞれ適用要件を満たす場合には、「二以上事業所勤務」としての手続きなど、別の取り扱いが必要になることがあります。具体的な判断は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

採用の段階で、この壁に当たらない程度に働きたいのかを確認するようにしています。そのうえで、四半期や半期ごとに、金額の高い人などに声をかけて調整するような形を取ったりしていますね。その分、少なかった人に「他のところで出られないか」を確認したりもします。だから、年末に全員が休みになって困った、ということはありません。日頃のコミュニケーションの中で労働時間の増減の相談はされますし、そういうやり取りができる関係でいることが、たぶんいちばんの仕組みなんだと思います。あと、掛け持ちの方はそもそも本業のほうで社保を払っているので、時間的な拘束はほとんどないんですよね。
第6章:その先の問い——調整しても、生活は楽にならない
壁を避けても、手取りは増えない
最後に、制度の話を離れて、正直に思っていることを書きます。
壁の要件を満たさないように調整すれば、確かに保険料の負担は避けられます。でも——そもそもの手取りの金額が増えない限り、生活はどんどん苦しくなっていくのではないでしょうか。
物価は上がり続けています。米も、資材も、光熱費も。その中で「年収121万円を超えないように」と時間を抑えることは、負担を避けてはいても、豊かさには近づいていない。壁の内側で最適化しているつもりが、実質的には目減りしている——そういう構図に見えることがあるのです。
「働き方を見直すきっかけ」と考えることもできる
パートに出ている主婦の方も、本当に大変だと思います。家事があり、育児があり、介護がある方もいる。その上で時間を調整するのは、簡単なことではありません。
それでも、共働きをしている以上、片方の給与だけでは足りないというケースがほとんどでしょう。だとすれば今回の改正は、働き方を見直すきっかけにしなくてはならないのかな、とも考えてしまうのです。
社会保険に入ることは、負担であると同時に、将来の年金が増え、傷病手当金や出産手当金の対象になるということでもあります。短期の手取りを守るのか、長期の保障と収入を取るのか——この選択は、本来もっとフラットに検討されていい。「壁を超えないのが当然」という前提そのものが、時代とずれてきているのかもしれません。
ただし、店が押しつける話ではない
念のため、はっきり書いておきます。これは、店が「もっと働いてください」と言う話ではありません。
働き方を決めるのは、その人と家族です。店にできるのは、選択肢と数字を正確に伝えることまで。「週20時間を超えるとこうなります」「超えないとこうなります」を、感情抜きで説明する。そのうえで本人が選んだ形を、シフトで受け止める。それだけです。
同じように、店の社会保険負担が増えるからという理由で、働きたい人の時間を抑えるのも本末転倒だと思っています。この人手不足の時代に、「もっと入りたい」という人に上限をかけるのは、経営的にも損です。社保加入を前提に週25〜30時間の準戦力を数人育てるほうが、週19時間を大量に並べるより、結果として安定するケースは十分にあり得ます(値上げと賃金の記事で書いた「人を安く使わない」という話とも、根はつながっています)。

調整をしたところで、壁の要件を満たすことで保険料の負担は避けられるけれど、そもそもの手取りの金額が増えない限り、生活はどんどん苦しくなっていくと思うんです。パートに出ている主婦の方も大変だとは思うんですが、働き方を見直すきっかけにしなくてはならないのかな、と考えてしまいました。共働きをしている以上、片方の給与では足りないというケースがほとんどでしょうから。もちろん、店から押しつける話ではないので、選択肢を正確にお伝えするところまでが、私たちの仕事だと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年10月に、何が変わるのですか?
パートタイマーの社会保険(厚生年金・健康保険)の適用判定から、月8万8,000円(年収換算で約106万円)以上という賃金要件が撤廃されます。残る要件は「週20時間以上」と「従業員51人以上の企業」で、企業規模要件も2035年10月までに段階的に撤廃される予定です。厚労省の試算では新たに約200万人が対象になるとされています。
Q2. 「106万円の壁がなくなる」と聞きましたが、負担は減るのですか?
いいえ。これは所得税の課税最低限を上げる話とは異なり、社会保険の適用対象を広げる改革です。就業調整対策でも手取り増の政策でもありません。これまで対象外だった人が保険料を負担する側になる一方、将来の年金が増え、傷病手当金などの給付対象にもなる、という表裏一体の変化です。
Q3. では、壁はなくなるのですか?
なくなりません。「金額の壁」が消えて、「週20時間」という時間の壁に一本化されるというのが正確な理解です。しかも最低賃金の上昇によって、首都圏・関西・愛知ではすでに週20時間働けば8.8万円を超えており、賃金要件は実質的に機能していませんでした。
Q4. 週19時間だと、年収はいくらになりますか?
東京都の最低賃金1,226円で週19時間・52週なら、約121万円です(社会保険は適用外)。週20時間にすると約127万円ですが、社会保険の適用対象になります。2026年度の最低賃金改定(目安は全国加重平均1,176円、8〜9月に各県決定)で、同様の状態が全国に広がる見通しです。
Q5. 店の社会保険負担は、どれくらい増えますか?
厚生年金・健康保険などを合わせると、おおむね賃金の14〜15%程度が事業主負担というのが目安です(料率は年度・都道府県で異なります)。月10万円の賃金なら月1.4〜1.5万円、年17〜18万円程度というモデル計算になります。正確な金額は最新の料率表と、本部や社会保険労務士への確認をおすすめします。
Q6. シフトは、具体的にどう変わりますか?
スタッフが見る数字が「時給×時間の年収」から「週の時間」だけに変わります。そして週19時間と週20時間というたった1時間の差で、本人の手取りと店の負担が同時に動きます。しかもこの制約は、年末の一時期ではなく10月から通年でかかってきます。
Q7. 長時間働くスタッフが多い店は、どうすればいいですか?
段差の影響を受けやすいので、早めの設計変更をおすすめします。私の店では1シフト4〜5時間で交代するスタッフを2〜3年かけて揃えてきた結果、一人あたりの時間が短く、誰かが減らしても他に振れる状態になりました。人時が細かく分割されているほど、可搬性が高く制度変更に強くなります。
Q8. スタッフへの説明は、いつ・どうすればいいですか?
8〜9月に自分の都道府県の最低賃金が決まったら、その額×20時間×52週を計算して自店の壁がどこに立つかを把握し、10月より前に伝えるのが良いと思います。説明は感情を交えず、「週20時間を超えるとこうなる/超えないとこうなる」を数字で。判断は本人と家族に委ねます。
Q9. 掛け持ちで働いている人は、影響を受けますか?
本業で社会保険に加入している方は、壁を意識して時間を抑える動機がないため、時間的な拘束はほとんどありません。10月以降、壁を意識する層が時間で頭打ちになるぶん、掛け持ち層の価値は相対的に上がると考えています。ただし複数の勤務先でそれぞれ要件を満たす場合は別の手続きが必要になることがあるため、年金事務所や社労士にご確認ください。
Q10. 社保に入ってもらうのは、店にとって損ですか?
短期的な負担は増えますが、一概に損とは言えません。社保加入を前提に週25〜30時間働ける準戦力を数人育てるほうが、週19時間を大量に並べるより結果的に安定するケースは十分にあります。人手不足の時代に「働きたい人の時間を制度都合で抑える」のは、経営的にも本末転倒だと考えています。
まとめ:良いシフト設計は、未知のリスクにも強い
2026年10月、社会保険の判定から月8.8万円(年収約106万円)の賃金要件が撤廃されます。ただしこれは「壁の撤廃」ではなく、「金額の壁」から「週20時間の壁」への一本化です。背景は制度の意地悪ではなく、最低賃金が上がりきって賃金要件が先に意味を失ったという順序——東京の最賃1,226円なら週19時間で年収約121万円、2026年度改定でこの状態は全国に広がります。実務では週19時間と20時間の1時間の段差が、本人の手取りと店の負担(賃金の14〜15%程度)を同時に動かし、しかも通年で効く。時給を上げても時間が増えないため、人時の配分問題に変わります。それでも自店が揺れないのは、1シフト4〜5時間で交代する体制を2〜3年かけて揃えてきたから。人時が細かいほど可搬性が高く、制度変更に強い。運用は①採用時に希望を確認②四半期ごとに金額の高い人を調整し、少ない人に振る③日頃の会話で増減の相談を受けられる関係——この3つで年末の集中も防げます。そして最後に残る問いは、壁を避けても手取りは増えないという現実。店にできるのは、選択肢を正確に伝えるところまでです。
この記事の要点
- 2026年10月、社会保険の月8.8万円(年収約106万円)賃金要件が撤廃(新たに約200万人が対象・厚労省試算)
- これは手取り増の政策ではなく、適用対象を広げる改革の一断面
- 壁は消えず「週20時間」に一本化される=金額の壁から時間の壁へ
- 背景は最賃上昇=首都圏・関西・愛知では既に週20時間で8.8万円超
- 東京1,226円×週19時間×52週=年収約121万円(社保適用外)
- 週19時間と20時間の1時間差で、本人の手取りと店の負担(賃金の14〜15%程度)が同時に動く
- 時給を上げても時間が増えない=人時の配分問題に変わる
- 1シフト4〜5時間の交代制は人時の可搬性が高く、制度変更に強い(2〜3年かけて構築)
- 運用は「採用時の確認」「四半期ごとの調整と振り分け」「日頃の会話」の3点セット
- 壁を避けても手取りは増えない。店は選択肢を正確に伝えるまで、押しつけない
次のアクション
- [ ] 8〜9月に自県の最低賃金が決まったら「最賃×20時間×52週」で自店の壁を計算する
- [ ] スタッフごとの週の労働時間を一覧化し、週20時間に近い人を洗い出す
- [ ] 長時間シフトに依存している時間帯がないか点検する(抜けたときの穴の大きさを見る)
- [ ] 採用時に「壁を意識して働きたいか」を確認する項目を面接に入れる
- [ ] 四半期ごとに金額の高い人・少ない人を見て、調整と振り分けをセットで行う
- [ ] 10月前に、週20時間を超える場合・超えない場合の数字をスタッフへ説明する
- [ ] 社保加入を前提に週25〜30時間働ける準戦力の候補がいないか検討する
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参考|公式情報
本記事は2026年8月時点の制度内容に基づく解説です。適用要件・手続き・最新の改正情報は、必ず下記の公式情報でご確認ください。
10月から、シフト表を見るときの目盛りが変わります。「106万円」という金額ではなく、「週20時間」という時間で。
でも、シフト表の向こうにいるのは、数字ではありません。子どもを送り出してから来てくれる人。介護の合間に4時間だけ入ってくれる人。本業の休みに顔を出してくれる人。制度が変わっても、その人たちの生活の形は変わらないのです。
だから私たちの仕事は、制度に人を合わせることではなく、制度が変わっても、その人の生活の形のままで働ける場所を用意しておくことなのだと思います。1シフト4〜5時間の体制を作ってきたのは、そのためでした——結果的に、ですけれど。
壁は移ります。でも、明日も朝の売場には、いつもの顔が並びます。それが変わらないように、シフトを組むだけです。

