358円の30円引きより、125円を100円に|安くすれば何倍も売れる。でも、ついで買いはついてこない——ニトリの価格哲学と、ギバーの店【現役オーナー】
ニトリの似鳥昭雄会長の言葉を、日経MJ(10月17日)が伝えています。「高級品も安くすれば100倍売れる」。そして、「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」。ドラム式洗濯機を9万9,900円で売り出した会社の言葉です。
読んで、アダム・グラントの『ギブ・アンド・テイク』を思い出しました。先に与える人が、結局は成功する、という本です。そして、こうも思いました。要するに、運ぶお金と売場の人件費をなくせば、安く売れる、ということだよね、と。
コンビニでも、安くすれば何倍も売れます。ただし響くのは、358円の30円引きではなく、125円を100円にするような、分かりやすい値段です。そして困ったことに、売れるのは値引きの商品だけ。ついで買いは、なかなかついてきません。
安ければいい、というわけでもない。値段は価値だと思うお客様もいる。それでも、店がギバーでなければ、常連は増えない。ニトリの価格哲学を鏡に、コンビニの値段と、与える店の作り方を書きます。
- ニュース——ニトリの「安くすれば100倍」
- 安さには、作り方がある——運ぶお金と、売場の人件費
- コンビニでも、安くすれば何倍も売れる——響くのは分かりやすい値段
- でも、売れるのは値引きの商品だけ
- 安ければいい、ではない——値段は価値、値段は味
- 店がギバーでなければ、常連は増えない
- レジは人に、品出しは機械に
※ニトリの内容は2026年10月17日の日経MJの報道、洗濯機の値段は家電の専門メディアの報道に基づきます。店の話は、私の店での実感です。2026年10月17日時点の情報です。
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第1章:ニュース——ニトリの「安くすれば100倍」
19年ぶりの日本開催で
日経MJ(10月17日)によると、アジア太平洋の小売業者が集まる大会が、19年ぶりに東京で開かれました。その記事が伝えた似鳥会長の言葉と、ニトリの取り組みを並べておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 価格の哲学 | 「高級品も安くすれば100倍売れる」(ドラム式洗濯機9.9万円を例に) |
| 創業以来の考え方 | 「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」 |
| 梱包の工夫 | 机の梱包の容量を39%減らし、運ぶ効率を上げる |
| ロボットの接客 | 数年以内の実現をめざし、各店1台から実験 |
| 人とロボット | 「全ての接客をロボット化することはできない。人間とロボットの融和を考えたい」 |
※2026年10月17日の日経MJの報道に基づきます。
9万9,900円の洗濯機
ニトリのドラム式洗濯機は、2024年11月に洗濯10kg・乾燥5kgのモデルを9万9,900円で発売し、2026年6月の後継機も同じ9万9,900円です(インプレスの家電ニュースサイトの報道)。高級品の代表のようなドラム式を、10万円を切る値段で出した。「100倍売れる」は、その実感から出た言葉なのだと思います。
第2章:安さには、作り方がある——運ぶお金と、売場の人件費
家で作れば、いちばん安い
この話を読んで、私はこう受け取りました。極端に言えば、お客様の家で洗濯機を作れば、いちばん安く売れる。工場から店へ、店から家へと運ぶお金。売場に立つ人の人件費。その両方がなくなるからです。
もちろん、洗濯機を家で作ることはできません。でも、ニトリが机の梱包を39%小さくしたのは、まさにその発想です。運ぶ箱が小さくなれば、運ぶお金が減る。減った分を、値段に返す。
安さの作り方が、信頼を決める
1000円ジーンズの記事で、安さには3つの作り方があると書きました。仕組みで原価を下げた安さは、売る側からもお客様からも信頼される。誰かの取り分を削った安さは、続かない。ニトリの安さは、運び方と売り方を変えて作った安さです。だから「先にお客の利益を考える」と胸を張って言える。
第3章:コンビニでも、安くすれば何倍も売れる——響くのは分かりやすい値段
本部の値引きセールは、何倍も売れる
コンビニでも、安くすれば売れます。

ここ最近、個店で値引きの施策をしなくても、コンビニ各社の本部主導で値引きセールを打っているのは、同じ理由からくるものだと思います。こういうときは、何倍も売れます。でも、「358円の物を30円引き」は響かない。「125円の物を100円」は響く。前者のほうが値引き額は大きいのに、後者のほうが圧倒的に売れるんです。価格の分かりやすさと、とにかく安いものへ、という動きですね。
値引き額より、値段の分かりやすさ
| 値引きのしかた | 値引き額 | 売れ方 |
|---|---|---|
| 358円の物を、30円引き(328円) | 30円 | 響かない |
| 125円の物を、100円に | 25円 | 圧倒的に売れる |
値引き額は、30円引きのほうが大きい。それでも、売れるのは100円のほうです。お客様は、値引きの額を計算して買うのではありません。「100円」という、分かりやすい値段に反応する。朝のセット割の記事でも、178円の50円引きより、150円を100円にするほうが分かりやすい、と書きました。値引きは、額より、着地する値段で決まります。
第4章:でも、売れるのは値引きの商品だけ
ついで買いが、ついてこない
ただ、コンビニの値引きには、ニトリとは違う悩みがあります。

施策の商品を来店の動機にして、関連販売やついで買いをしてもらいたいんですけど、なかなかそうもいかなくて、施策の商品だけの購入に留まるケースが多いのが課題です。家電と違って、1個あたりの単価が低いので、ついで買いの重要性が肝なんです。
9万9,900円と、100円の違い
ニトリの洗濯機は、1台売れれば9万9,900円です。安くして100倍売れれば、それだけで大きな売上になる。でも、コンビニの値引き商品は、1個100円です。何倍売れても、それだけでは店は潤いません。だから、値引きの商品を入口にして、もう1品、2品と買ってもらう必要がある。それが、なかなか起きない。
1000円ジーンズの記事で、集客の商品は当日ではペイせず、翌日以降の来店で回収するものだ、と書きました。朝のセット割の記事でも、対象の商品ばかりが売れるという副作用を書いています。「安くすれば何倍も売れる」は、コンビニでも本当です。でも、それは値引きの商品の話で、店全体の話ではない。そこが、家電との大きな違いです。
第5章:安ければいい、ではない——値段は価値、値段は味
「この商品、古いの?」
安くすれば売れる。でも、安ければいい、というわけでもありません。

値段=価値、値段=美味しい、と思っている層の方は一定数いるので、なんでもかんでも安ければ良いってわけでもないかなと思います。夏物と冬物の入れ替えなどで、値引きをして在庫を処分するときなんかは、「この商品古いの?」「賞味期限近いの?」と聞かれるケースが多々あります。
店の意図と、お客様の受け取り方
| 中身 | |
|---|---|
| 店の意図 | 季節の入れ替えで、在庫を処分したい |
| お客様の受け取り方 | 古いのでは、賞味期限が近いのでは |
店は、季節が変わるから値引きをする。お客様は、値引きされているから何かあるのでは、と考える。同じ値札が、まったく違う意味で読まれます。値引きシールの記事で、コンビニは「定価販売の国」で、値引きが増えると定価を支えてきた価値が薄まる、と書きました。値引きより価値の記事では、高い電池のほうが安心だと選ぶ年配のお客様の話を書いています。値段は、価値の目印でもある。だから、値引きのしかたには、理由の伝え方まで含めた設計が要ると思います。
第6章:店がギバーでなければ、常連は増えない
先に与える店に、人は戻ってくる
ニトリの「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」は、まさにギバーの考え方です。

店の側がギバーでないと、常連さんや、もう一度利用したいと感じる人を増やしていくことはできないと思います。客数の改善には接客が大事だと言っているのも、ここに関係してきます。
値引きは「一度」、接客は「何度も」
『ギブ・アンド・テイク』の記事で、お客様が持ってきた袋にも商品を詰めてしまう私の癖と、燃え尽きるギバーと成功するギバーの違いを書きました。「近いから」以外の理由の記事では、コンビニが選ばれる理由のいちばんは接客だ、と書いています。
値引きは、その日の1回を連れてくる。でも、その人がまた来るかどうかは、値引きでは決まりません。気持ちよく買い物ができたか。また来たいと思えたか。第4章の「ついで買いがついてこない」悩みも、根っこは同じだと思います。値引きで来たお客様を、常連に変えるのは、値段ではなく、店が先に与えるものです。
第7章:レジは人に、品出しは機械に
ニトリでも、全部はロボットにできない
似鳥会長は、ロボットの接客を進めながらも、「全ての接客をロボット化することはできない。人間とロボットの融和を考えたい」と語りました。省人化の先頭を走る会社でも、結論は融和です。

今の社会の流れとしては、レジをセルフ化する方向ですけど、本来レジのようなところは、人が担うべき部分だと思います。逆に、品出し、前陳、フェイスアップなどを自動化できるのが理想形ですね。
機械に任せる場所が、逆になっている
いまの省人化は、レジを機械に任せ、品出しを人が担う形で進んでいます。でも、私の考えは逆です。レジは、お客様と顔を合わせる、ギバーになれる場所。品出しや前陳、フェイスアップは、お客様と話さずに済む作業です。機械に任せるなら、そちらのほうが理想です。
セルフレジの記事で、コンビニは有人レジに戻り始めていると書きました。セリアの記事では、ロスを店が負う加盟店では、今のレジで無人化は多用できないと書いています。フェイスアップの記事で書いた前陳や前出しは、売場の基本ですが、毎日の手間でもあります。人がいるべき場所に人を置き、人でなくていい作業を機械に渡す。融和とは、その線の引き方のことだと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. ニトリの「高級品も安くすれば100倍売れる」とは、どういう話ですか?
日経MJ(2026年10月17日)が、19年ぶりに日本で開かれたアジア太平洋の小売業の大会の記事で伝えた、ニトリの似鳥昭雄会長の言葉です。ドラム式洗濯機を9万9,900円で売り出したことを例に、高級品も安くすれば売れる数が大きく変わる、という考え方を示しました。「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」という創業以来の考え方も語っています。
Q2. ニトリは、どうやって安くしているのですか?
報道によれば、机の梱包の容量を39%減らして、運ぶ効率を上げています。私は、極端に言えば、工場から店へ、店から家へと運ぶお金と、売場の人件費をなくすほど安く売れる、という話だと受け取りました。
Q3. コンビニでも、安くすれば売れますか?
売れます。最近は、店ごとの値引きをしなくても、各社の本部主導で値引きセールが打たれていて、そういうときは何倍も売れます。
Q4. 値引きは、いくら引けば響きますか?
値引きの額より、着地する値段の分かりやすさが大事です。私の店では、358円の物を30円引きにしても響きませんが、125円の物を100円にすると圧倒的に売れます。値引き額は前者のほうが大きいのに、後者のほうが売れます。
Q5. 値引きの商品を入口に、ついで買いは増えますか?
なかなか増えないのが課題です。値引きの商品を来店の動機にして、関連販売やついで買いをしてもらいたいのですが、値引きの商品だけを買って帰るケースが多い。家電と違って1個あたりの単価が低いので、ついで買いが肝になります。
Q6. 安ければ安いほど、お客様は喜びますか?
そうとは限りません。値段は価値、値段は美味しさ、と考えるお客様も一定数います。季節の入れ替えで値引きをすると、「この商品古いの?」「賞味期限近いの?」と聞かれることがよくあります。店の意図とお客様の受け取り方は、違うことがあります。
Q7. 「ギバーの店」とは、どういう店ですか?
アダム・グラントの『ギブ・アンド・テイク』でいう、先に与える側に立つ店のことです。私は、店の側がギバーでないと、常連さんや、もう一度利用したいと感じる人は増えないと考えています。客数の改善に接客が大事だと言うのも、そのためです。
Q8. 値引きと接客は、どう違いますか?
値引きは、その日の1回の来店を連れてきます。でも、その人がまた来るかどうかは、気持ちよく買い物ができたかどうかで決まると思います。値引きで来たお客様を常連に変えるのは、値段ではなく、店が先に与えるものです。
Q9. コンビニで、機械に任せるべき仕事は何ですか?
私は、レジは人が担うべき場所で、品出し、前陳、フェイスアップのような作業こそ自動化できるのが理想だと考えています。いまの流れはレジのセルフ化ですが、レジはお客様と顔を合わせる、ギバーになれる場所だからです。
Q10. この記事の情報の出典は?
ニトリの似鳥会長の発言、梱包の工夫、ロボットの接客は2026年10月17日の日経MJの報道、ドラム式洗濯機の値段はインプレスの家電ニュースサイトの報道(2024年11月・2026年6月)に基づきます。値引きの響き方、ついで買い、値段と価値、ギバーの店、レジと品出しの考え方は、私の店での実感です。
まとめ:安さは連れてくる。戻ってくるかは、与えるもの次第
ニトリの似鳥会長は「高級品も安くすれば100倍売れる」と言い、ドラム式洗濯機を9万9,900円で出しました。安さの作り方は、運ぶお金と売場の人件費を減らすこと。そして「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」は、ギバーの考え方です。コンビニでも、安くすれば何倍も売れます。ただし響くのは、358円の30円引きではなく、125円を100円にするような分かりやすい値段。そして売れるのは値引きの商品だけで、ついで買いはなかなかついてこない。単価の低いコンビニでは、そこが家電との大きな違いです。安ければいいわけでもなく、季節の値引きには「この商品古いの?」と聞かれる。値段は、価値の目印でもあります。だからこそ、値引きで来たお客様を常連に変えるのは、値段ではなく、店が先に与えるものです。レジは、そのギバーになれる場所。機械に任せるなら、レジではなく、品出しや前陳、フェイスアップのほうが理想だと思います。
この記事の要点
- ニトリ会長「高級品も安くすれば100倍売れる」。ドラム式洗濯機は9万9,900円(報道)
- 安さの作り方は、運ぶお金と売場の人件費を減らすこと(机の梱包を39%小さく)
- 「お客の利益を先に考え、結果的に会社の利益が出る」は、ギバーの考え方
- コンビニでも、本部主導の値引きセールでは何倍も売れる
- 響くのは値引き額より値段の分かりやすさ。358円の30円引きより、125円を100円に
- 売れるのは値引きの商品だけで、ついで買いはつきにくい。単価の低いコンビニでは、ついで買いが肝
- 値段は価値、値段は味と考える客もいる。季節の値引きには「古いの?」と聞かれる
- 店がギバーでなければ、常連は増えない。客数の改善に接客が大事なのはそのため
- 値引きはその日の1回を連れてくる。戻ってくるかは、店が先に与えるもの次第
- レジは人に、品出し・前陳・フェイスアップは機械に、が理想
次のアクション
- [ ] 値引きをするときは、値引き額より、着地する値段が分かりやすいかを先に考える
- [ ] 値引きの商品と一緒に買ってもらいたい商品を、売場の近くに置いてみる
- [ ] 値引きの日のレシートで、値引きの商品だけを買った人の割合を確かめる
- [ ] 季節の入れ替えの値引きでは、「入れ替えのため」と理由を伝える工夫をする
- [ ] 値引きで来たお客様にも、いつもと同じ接客で応える
- [ ] 店の作業を、レジで人がやるべきことと、機械に任せたいことに分けて書き出す
- [ ] 品出しや前陳の手間を減らせる工夫を、ひとつずつ試す
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参考|公式情報
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- 東京都・東京観光財団|第22回アジア太平洋小売業者大会の東京開催が決定(2023年10月31日・PDF):日本での開催は、1983年の第1回、2007年の第13回の東京大会に続き3回目で、19年ぶり。主催は日本小売業協会
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- 国立国会図書館サーチ|GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代:アダム・グラント著(三笠書房、2014年)。本記事の「ギバー」は、この本でいう、先に与える人のこと
100円の値札の前で、お客様の手が止まります。358円の30円引きの前では、止まりません。値段は、分かりやすいほど人を動かします。
でも、その人がまた来てくれるかどうかは、値札では決まりません。レジで交わした一言、袋に詰めた手、また来たいと思える店かどうか。
安さは、お客様を連れてくる。戻ってきてもらうのは、店が先に与えるものです。ギバーの店でありたいと、今日もレジに立ちながら思います。

